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 12月に注意してほしい感染症について、流行の傾向と感染対策を見ていきましょう。

【No.1】新型コロナウイルス感染症
 全国の新規感染者数は、直近の1週間では10万人あたり約0.6と、昨年の夏以降で最も低い水準が続いています。それに伴い、療養者数、重症者数や死亡者数も減少が続いている状況です。ワクチン総接種回数は、11月29日時点で1億9千万回を超え、全体の2回接種率は76.5%、20代の接種者は71.4%と、接種率が向上しています。

 新規感染者数は低い水準となっているものの、感染伝播は継続しています。時間の経過とともに、抗体価の低下などによるブレークスルー感染や、大幅な規制緩和の中で、感染者数がリバウンドするおそれもあります。ワクチン接種者も含め、引き続きマスクの正しい着用、手指衛生といった基本的な感染対策を行いましょう。また今後、気温が低下していくことにより、屋内での活動が増えることが予想されますので、こまめな換気を心がけてください。

【No.2】ノロウイルス感染症
 ノロウイルス感染症は保育園や幼稚園、小学校などの集団生活で、感染が多くみられる感染症です。

 ノロウイルスに感染すると、1日~1日半、多い時には10回以上の嘔吐や下痢の症状が続きます。ノロウイルスは有効とされるワクチンや薬がまだ開発されていないため、対症療法を行います。下痢止めを飲むと、ウイルスが体内に残ってしまうため、飲まないようにしましょう。嘔吐や下痢が続いている時は、脱水症状に注意して下さい。水分を補給する際には、電解質輸液が効果的です。

 ウイルスが付着していると考えられる物品の消毒については、次亜塩素酸ナトリウムを用いて行いましょう。使用する濃度は500ppmが推奨されます。嘔吐や下痢などの症状が改善しても24時間は、自宅で様子をみるようにしましょう。症状がなくなったからといって、登園もしくは登校させると、集団感染につながるおそれがあります。

【No.3】インフルエンザ
 現在のインフルエンザの報告数は、わずかですが、各地で患者が出始めているといった状況です。

 日本でのインフルエンザの流行は、例年11月下旬から12月上旬にかけて始まり、1月下旬から2月上旬にピークを迎え、3月頃まで続きます。

 インフルエンザの予防には、予防接種を受けることが有効です。ここ2年ほど、季節性インフルエンザの流行がみられず、新生児や幼児が初めて感染すると重症化しやすいことから、予防接種を受けることで、発症率、重症化率の低減につながると言われています。予防接種を受けてから、抗体ができるまで約2週間かかり、効果は約5か月間持続しますので、流行前に早めに接種することを、お勧めします。

【No.4】咽頭結膜熱
 咽頭結膜熱は発熱・咽頭炎・上気道炎など、新型コロナウイルス感染症と区別がつきにくい症状が現れます。

 病気を引き起こすアデノウイルス(主にアデノウイルス3型)は、感染力が強く接触や飛沫によって感染します。今年は、例年流行のピークとなる夏期の患者数は低い水準で推移しましたが、冬の流行のピークである12月に向けて増加していく可能性があります。発熱や咽頭痛、結膜炎など、症状が疑われる場合は速やかにかかりつけ医を受診しましょう。眼症状は一般的に片方から始まり、その後、他方にも症状が現れます。

 潜伏期は5~7日とされています。主な感染経路は接触感染で、感染力は強力です。直接接触だけではなくタオル、ドアの取っ手、階段やエスカレーターの手すり、エレベーターのボタン等の不特定多数の人が触る物品を介した間接接触でも感染が広がります。感染の予防には、間接的な接触でも感染することから、流水・石けんによる手洗いをこまめに行うようにしましょう。

【No.5】手足口病・ヘルパンギーナ
 例年、手足口病の流行は7月下旬にピークを迎えることが多いですが、ことしは8月中旬より報告数が増え始めています。

 手足口病は、エンテロウイルスなどを病原体とする感染症で、流行は夏に集中しています。3日から5日の潜伏期間の後に発症し、口の粘膜・手のひら・足の甲や裏などに、2~3ミリの水疱性の発疹が現れます。手足口病の感染経路としては飛沫感染、接触感染、糞口感染があげられます。保育園や幼稚園などの乳幼児施設における流行時の感染予防は、手洗いの励行と排泄物の適切な処理が基本となります。

 一方で、子どもがウイルス感染し、その後に看病にあたった大人が手足口病に感染し、発症する例もみられます。職場では感染対策として、マスクを着用し、こまめに石けんを用いて手洗いを行うようにしてください。

 同じウイルス属のヘルパンギーナも、例年、5月頃より増え始め、7月頃にピークを迎えて8月頃に減少し始め、9月~10月にかけては、ほとんど見られませんが、今年は季節外れの流行をみせています。特に九州地方では、警報レベル開始基準値の5人を超える地域が多くみられました。今後は、気温が下がるにしたがって終息していくものとみられていますが、感染者数の動向は注視すべきです。

 喉からウイルスが排出されるため、咳をしたときのしぶきにより感染します。感染者との密接な接触を避けることや、流行時にうがいや手指の消毒を励行することが大切です。

監修:大阪府済生会中津病院感染管理室室長・国立感染症研究所感染症疫学センター客員研究員 安井良則氏