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 国立感染症研究所によると、2021年の梅毒の感染者数は過去最多となる見込みです。2021年第1週~41週まで(1/4〜10/17)の報告数は、10月20日時点の暫定値で5,186例となっています。

 これは1999年の感染症法施行以降、最も多い報告数とされた2018年の第41週(2018/10/17)の報告数(5,365例)を上回っています。

 この点を、感染症専門医である、大阪府済生会中津病院の安井良則医師にお話を伺いました。

1週間で200人の報告数

 (安井医師)梅毒は、2021年の報告数が、過去一番多い年になると予想しています。国立感染症研究所では現在、1週間に200人の症例が報告されています。梅毒は、血液検査ですぐに結果が分かります。無症状の方も多いですが、手のひら、足の裏、体全体にうっすらと赤い発疹ができるなど、目に見える症状が出ることもあります。自分で少しでもあやしいと思ったら、内科など、どの医療機関でも検査を受けることができますので、早めの受診をご検討ください。

 私の勤務する病院では、コロナ禍で入院する際のスクリーニング検査で、梅毒の感染が分かったという方がいらっしゃいました。この感染症は無症状の場合も多いので、入院などで初めて発覚することもあります。

 特に妊娠を考えていらっしゃる方や妊婦さんは、梅毒が胎盤を通じて母子感染し、流産、死産、先天梅毒を起こす可能性が高いため、早めの梅毒スクリーニング検査をおすすめします。

 現在の治療方法は、抗菌薬による内服が中心ですが、2021年7月に新たに注射による治療薬が、厚生労働省の新薬承認に関わる部会で審議開始となり、承認されました。これにより、今後、治療の選択肢が広がると考えられます。

梅毒とは

 梅毒は、性的な接触(他人の粘膜や皮膚と直接接触すること)などによってうつる感染症です。原因は梅毒トレポネーマという病原菌で、病名は症状にみられる赤い発疹が楊梅(ヤマモモ)に似ていることに由来します。感染すると全身に様々な症状が出ます。

 早期の薬物治療で完治が可能です。検査や治療が遅れたり、治療せずに放置したりすると、長期間の経過で脳や心臓に重大な合併症を起こすことがあります。時に無症状になりながら進行するため、治ったことを確認しないで途中で治療をやめてしまわないようにすることが重要です。また完治しても、感染を繰り返すことがあり、再感染の予防が必要です。

症状

 感染したあと、経過した期間によって、症状の出現する場所や内容が異なります。

<第Ⅰ期:感染後約3週間>
 初期には、感染がおきた部位(主に陰部、口唇部、口腔内、肛門等)にしこりができることがあります。また、股の付け根の部分(鼠径部)のリンパ節が腫れることもあります。痛みがないことも多く、治療をしなくても症状は自然に軽快します。

 しかし、体内から病原体がいなくなったわけではなく、他の人にうつす可能性もあります。感染した可能性がある場合には、この時期に梅毒の検査が勧められます。

<第Ⅱ期:感染後数か月>
 治療をしないで3か月以上を経過すると、病原体が血液によって全身に運ばれ、手のひら、足の裏、体全体にうっすらと赤い発疹が出ることがあります。小さなバラの花に似ていることから「バラ疹(ばらしん)」とよばれています。

 発疹は治療をしなくても数週間以内に消える場合があり、また、再発を繰り返すこともあります。しかし、抗菌薬で治療しない限り、病原菌である梅毒トレポネーマは体内に残っており、梅毒が治ったわけではありません。

 アレルギー、風しん、麻しん等に間違えられることもあります。この時期に適切な治療を受けられなかった場合、数年後に複数の臓器の障害につながることがあります。

<晩期顕性梅毒(感染後数年)>
 感染後、数年を経過すると、皮膚や筋肉、骨などにゴムのような腫瘍(ゴム腫)が発生することがあります。また、心臓、血管、脳などの複数の臓器に病変が生じ、場合によっては死亡に至ることもあります。

 現在では、比較的早期から治療を開始する例が多く、抗菌薬が有効であることなどから、晩期顕性梅毒に進行することはほとんどありません。

 また、妊娠している人が梅毒に感染すると、胎盤を通して胎児に感染し、死産、早産、新生児死亡、奇形が起こることがあります(先天梅毒)。

治療方法

 一般的には、外来で処方された抗菌薬を内服することで治療します。内服期間等は病期により異なり、医師が判断します。病変の部位によっては入院のうえ、点滴で抗菌薬の治療を行うこともあります。

 医師が治療を終了とするまでは、処方された薬は確実に飲みましょう。性交渉等の感染拡大につながる行為は、医師が安全と判断するまではひかえましょう。

 また、周囲で感染の可能性がある方(パートナー等)と一緒に検査を行い、必要に応じて、一緒に治療を行うことが重要です。

予防方法

 感染部位と粘膜や皮膚が直接接触をしないように、コンドームを使用することが勧められます。ただし、コンドームが覆わない部分の皮膚などでも感染がおこる可能性があるため、コンドームを使用しても、100%予防できると過信はせず、皮膚や粘膜に異常があった場合は性的な接触を控え、早めに医療機関を受診して相談しましょう。

一度梅毒になったので、もう免疫があると考えてよい?

 梅毒の感染は、医師が検査で血液中の免疫(抗体)を確認して判断をします。感染した人の血液中には、一定の抗体がありますが、再感染を予防できるわけではありません。このため、適切な予防策(コンドームの使用、パートナーの治療等)が取られていなければ、再び梅毒に感染する可能性があります。

引用:厚生労働省「梅毒に関するQ&A」
国立感染症研究所「梅毒とは」
取材:大阪府済生会中津病院感染管理室室長 国立感染症研究所感染症疫学センター客員研究員 安井良則氏