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腸管出血性大腸菌感染症<br />流行のようす<br />(2007年~2021年第25週) 腸管出血性大腸菌感染症
流行のようす
(2007年~2021年第25週)
 腸管出血性大腸菌感染症の患者報告数が増加しています。

 腸管出血性大腸菌に感染すると、3~5日間の潜伏期間を経て、激しい腹痛を伴う頻回の水様性の下痢が起こり、その後で血便となります(出血性大腸炎)。また、発病者の中には、下痢など最初の症状が出てから5~13日後に、溶血性尿毒症症候群(HUS)や脳症などの重篤な合併症を発症するといわれています。

 腸管出血性大腸菌は、牛や羊などの家畜や他の動物が保菌しており、牛の生肉や生のレバー等を食べると感染してしまう可能性が高くなります。なお、厚生労働省は、牛レバーや豚肉・豚の内臓(レバーを含む)を生食用として販売・提供することを禁止しています。

 国立感染症研究所によると、2021年第25週(6/21~6/27)の患者報告数は106件です。また、2021年第20週(5/17~5/23)頃から増加傾向がみられ、昨年の同時期よりも高い水準で推移しています。例年、8月中旬頃に流行のピークを迎えることから、今後も患者数が増えることが予測されます。

 主な感染経路は飲食物を介した経口感染であり、菌に汚染された飲食物を摂取することや、患者の糞便に含まれる大腸菌が直接または間接的に口から入ることによって感染します。腸管出血性大腸菌は中心部まで75℃で1分間以上加熱することで死滅するので、食事の際はしっかりと加熱することが基本です。また焼肉などでは、生肉を扱った箸やトングなどは生食用のものと使い分けましょう。

 特にこれからの季節は、飲食店や自宅でお肉を焼く機会も増えると思います。じゅうぶんに感染対策を行って安全に食べましょう。

腸管出血性大腸菌とは

 大腸菌は、哺乳類や鳥類の主に大腸に生息している細菌で、菌の表面にある抗原(O抗原と呼びます)によって約180種類に分類されます。殆どの大腸菌は、例えヒトの大腸内にあっても無害ですが、一部にヒトに対して病原性を示すものがあります。

 腸管出血性大腸菌(EHEC:enterohemorrhagic E. coli)とは、ベロ毒素(VT:Verotoxin、VT1とVT2があります)を作り出す能力を持った大腸菌のことです。

 O抗原で分類される大腸菌O157は、腸管出血性大腸菌として有名ですが、たとえO157であってもベロ毒素を産生できなければ、腸管出血性大腸菌ではありません。

 腸管出血性大腸菌は、ヒトの体内で常在する大腸菌ではなく、牛や羊などの家畜や他の動物が保菌しています。牛の生肉や生のレバー等を食べることは感染してしまう可能性が高くなります。

症状と合併症

 感染後3~5日間の潜伏期間を経て、激しい腹痛を伴う頻回の水様性の下痢が起こり、その後で血便となります(出血性大腸炎)。発熱は軽度です。血便は、初期段階では少量の血液の混入で始まりますが、次第に血液の量が増加し、典型例では血液そのもののような状態となります。

 発病者の6~7%では、下痢などの最初の症状が出てから5~13日後に溶血性尿毒症症候群(HUS)や脳症などの重篤な合併症をきたすことが知られています。HUSを合併した場合の致死率は1~5%といわれています。

ベロ毒素の作用

 ベロ毒素(VT)は細胞を障害し、破壊してしまう作用があり、腸管粘膜の上皮細胞が障害されることによって下痢や血便が起こります。

 ベロ毒素によって腎臓をはじめとする毛細血管の内皮細胞が障害されることによって、急性腎不全、溶血性貧血、血小板減少の3つを特徴とする溶血性尿毒症症候群(HUS)が発生します。

 脳や脊髄の神経細胞が障害されることによって脳症が発生するといわれています。

 腸管出血性大腸菌に感染・発症後、ベロ毒素の作用によって続発するHUSの合併を防ぐ有効な手段はありません。発症後2週間は慎重に経過観察を行う必要があります。

感染経路と対策

 主な感染経路は、腸管出血性大腸菌によって汚染された食材や水分を経口摂取することによる経口感染です。

 牛の生肉や生レバーなどの内臓は、腸管出血性大腸菌の感染の可能性があるので、食べるべきではありません。特に保育所に通う年頃の乳幼児は厳禁です。その他にも、高齢者や乳幼児と日常的に接触する職業や立場の人(家庭も含めて)、あるいは免疫力の低下した人と接触する職業・立場の人は厳に慎むべきです。

衛生管理

 腸管出血性大腸菌は中心部まで75℃で1分間以上加熱することで死滅するので、食事の際はしっかりと加熱することが基本です。

 また焼肉などでは、生肉を扱った箸やトングなどは生食用のものと使い分けましょう。

 以前より野菜類(生野菜はもとより浅漬けなど)やそれ以外の加工食品(最近ではお団子の食中毒)での集団発生がみられることがあります。施設に提供され、そのまま加熱処理等が行われないままに供される食材の衛生管理は、納入業者と連携してしっかりと行われなければなりません。

感染症予防接種ナビでは、みなさまから腸管出血性大腸菌感染症の経験談を募集しています。

取材:大阪府済生会中津病院感染管理室室長 国立感染症研究所感染症疫学センター客員研究員 安井良則氏