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 7月に入り全国各地で、線状降水帯や発達した雨雲が観測されています。一部の自治体などでは、危険度が最も高い「緊急安全確保」が発表されました。災害時には、近隣の安全な施設への避難を考える方もいらっしゃると思います。

 新型コロナウイルスなどの感染症が流行している中での避難は、どのような事に気をつけるべきでしょうか。避難所を利用する際の注意点を大阪府済生会中津病院の安井良則医師に伺いました。

過去の経験から

 2011年3月に東日本大震災が発生時に、東北地方に設置された避難所で診療にあたった際の出来事です。その時は、海外から取材に訪れた記者によって「麻しん(はしか)」が持ち込まれ、感染が拡がったケースがありました。避難所は、多くの人が訪れるため、密になりがちです。そのため、飛沫・接触感染の恐れが高く、じゅうぶんな換気や他者との距離を適切に保つことが重要です。

避難所で注意してほしい感染症

 最も注意してほしいのは、新型コロナウイルス感染症です。また、夏季に流行するアデノウイルス・エンテロウイルスにも注意が必要です。

①新型コロナウイルス感染症
 マスク着用とアルコール消毒を心掛けてください。避難所で他者との距離を取ることは、難しい面もありますが、意識することが大切です。

②アデノウイルス・エンテロウイルス
 アデノウイルスは咽頭結膜熱などの原因ウイルスで感染力は強力です。主に接触感染で、飛沫感染もあります。消毒アルコールは、効果はあるのですが、効力を発揮するのに 10分以上の時間を要するため、使用しづらいという難点があります。接触感染対策として最も重要なことは手指衛生で、流水・石けんによる手洗いが最も効果的です。

 エンテロウイルスはヘルパンギーナや手足口病などの原因ウイルスです。エンテロウイルスに感染した場合、「かぜ」のような上気道炎症状や発熱・発疹などが出る場合があります。ごくまれに、ウイルス性髄膜炎を起こす場合もあります。感染対策は、手洗いが基本で、特に感染者の排便後の手洗いは重要です。お子さんのおむつの取り替え後は、流水と石けんで入念に手を洗い、タオルの共用は避けてください。

③食中毒(カンピロバクター感染症・腸管出血性大腸菌感染症)
 避難所など、普段と違う状況での食事の際は特に注意が必要です。弁当の取り置きや差し入れ等の肉が生焼けで、食中毒になる恐れがあります。手指衛生はもちろん、食べる時は、中まで十分に加熱されているか確認することが大切です。

防災グッズの見直しも

 家庭に常備されている非常用持ち出し袋には、当面の水・食料や最低限の衛生用品が入っているかと思われます。しかし、避難所での感染対策には、じゅうぶんではありません。家族で1週間程度使えるマスクが確保されているか、アルコール消毒液は入っているかなど確認してみましょう。アルコール消毒液については、皮膚が荒れにくいジェルタイプのものも市販されています。

 流行している感染症の動向にも注意しながら、再度、防災グッズを点検してみてはいかがでしょうか。

感染症・予防接種ナビでは、みなさまからの感染症経験談を募集しています。

取材:大阪府済生会中津病院感染管理室室長・国立感染症研究所感染症疫学センター客員研究員・安井良則