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5月に注意してほしい感染症
【No1】新型コロナウイルス感染症(COVID-19)…4月に緊急事態宣言が発令されて、日本ではオーバーシュートの状態には今のところなってはおらず、5月に入って患者数が減少することも期待されます。一方、ここで国民の対策が緩んでしまうと、再び患者数が増加する可能性は高く、5月が今後の流行を占う意味でも正念場であると言えます。
【No2】A群溶血性レンサ球菌咽頭炎(溶連菌感染症)…例年に比べると患者数が非常に減少していますが、5~6月は毎年流行のピークを迎える時期であり、今後、学校・幼稚園等が再開された時には患者数の増加が見られると予想されます。
【No3】咽頭結膜熱…別名プール熱とも呼ばれます。過去15年間で最も患者数が減少していますが、例年5~6月は患者数の増加が見られる時期であり、今後、学校や幼稚園が再開されると、患者数が増加することが予想されます。
【No4】手足口病…いまだ患者数が増加する兆候は見られていませんが、5~6月は、7月の流行のピークに向けて患者数が増加していく時期です。今後、学校や幼稚園等が再開されると、患者数の増加が見られると予想されます。
感染症ごとに、更に詳しくみていきましょう。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)
発熱・鼻水・のどの痛み・咳などといった、風邪のような症状から始まります。また、頭痛や強い倦怠感などが良く見られる症状です。下痢や味覚・嗅覚障害を伴うことも少なくはありません。症状の続く長さ(期間)については、風邪やインフルエンザと比べて長いという特徴があるようです。中国のデータによると、患者の8割は軽症で治癒するようです。一方、2割弱の患者では、肺炎の症状が強くなり、入院して酸素投与などの治療が必要になることがあります。重症化する場合は、発症から1週間前後で発熱や呼吸困難などの症状が悪化し、場合によっては人工呼吸器による管理が必要となる例も見られています。特に発症から10日間前後は、病勢が進行していく場合が多いですから、最初は軽症であると思っても、慎重な経過観察が必要です。新型コロナウイルス感染症で重症化しやすいのは、高齢者と基礎疾患のある方と言われています。中国CDCのデータによると、高齢者ほど致死率が高くなることが示されています。厚生労働省が示している「新型コロナウイルス感染症についての相談・受診の目安」にあるように、こういった方は一般の方よりも早めに、帰国者・接触者相談センターに相談しましょう。
コロナウイルスの感染経路は、飛沫感染と接触感染です。原則として空気感染はありません。最も重要な対策は、咳エチケットと手洗い・アルコール消毒など手指衛生を徹底することです。手洗いが大切な理由は、ドアノブや電車のつり革など様々なものに触れることにより、自分の手にもウイルスが付着している可能性があるからです。外出先からの帰宅時や調理の前後、食事前などこまめに手を洗いましょう。また、感染拡大を防ぐため、人と人との距離を保つことが重要です。専門家会議によると、これまで集団感染が確認された場所に共通するのは、
(1)換気の悪い密閉空間
(2)多くの人が密集していた
(3)近距離(互いに手を伸ばしたら届く距離)での会話や発声が行われた
という3つの条件(3つの密)が同時に重なった場所です。こうした場所ではより多くの人が感染していたと考えられます。これらの3つの条件が同時に揃う場所や場面をできるだけ予測し、避ける行動をとりましょう。また、これら3つの条件がすべて重ならないまでも、1つまたは2つの条件があれば、なにかのきっかけで3つの条件が揃うことがあります。3つの条件ができるだけ同時に重ならないようにすることが対策となります。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)
A群溶血性レンサ球菌咽頭炎(溶連菌感染症)
溶連菌感染症の症状が疑われる場合は、速やかにかかりつけ医を受診しましょう。溶連菌感染症と診断され、抗菌薬が処方された場合は、医師の指示に従うことが重要です。途中で抗菌薬をやめた場合、病気の再燃や糸球体腎炎などの合併症を来すことが知られています。溶連菌感染症は、学童期の小児に最も多く、3歳以下や成人では典型的な症状が現れることは少ないといわれています。症状としては2~5日の潜伏期間を経て、38度以上の発熱と全身倦怠感、のどの痛みによって発症し、しばしばおう吐を伴います。
また、舌にイチゴのようなぶつぶつができる「イチゴ舌」の症状が現れます。まれに重症化し、全身に赤い発しんが広がる「猩紅熱(しょうこうねつ)」になることがあります。また、十分な抗菌薬の投与による治療をおこなわないと、リウマチ熱や急性糸球体腎炎などを引き起こすことが知られています。
主な感染経路は、発症者もしくは保菌者(特に鼻咽頭部に保菌している者)由来の飛沫による飛沫感染と濃厚な直接接触による接触感染です。物品を介した間接接触による感染は稀とされていますが、患者もしくは保菌者由来の口腔もしくは鼻腔由来の体液が明らかに付着している物品では注意が必要です。発症者に対しては、適切な抗菌薬による治療が開始されてから48時間が経過するまでは学校、幼稚園、保育園での集団生活は許可すべきではないとされています。
A群溶血性レンサ球菌咽頭炎(溶連菌感染症)
咽頭結膜熱(プール熱)
咽頭結膜熱は、別名プール熱とも呼ばれています。例年、6~7月と12月を中心に流行のピークを迎えます。発熱、咽頭炎(咽頭発赤、咽頭痛)、結膜炎(結膜充血、眼痛、流涙、眼脂)の3つが主な症状です。通常感染してからの潜伏期間は5~7日。症状がある期間は3~5日といわれています。咽頭結膜熱の感染経路は、主に接触感染です。また、飛沫感染もあります。原因ウイルスは、アデノウイルスで、感染力は強力です。直接接触だけではなくタオル、ドアの取っ手、階段やエスカレーターの手すり、エレベーターのボタン等の不特定多数の人が触る物品を介した間接接触でも感染が広がります。
アデノウイルスは、環境中で数日間活性を保っているため、施設やご家庭などで患者が発生している場合は、皆がよく手を触れるものを中心に消毒を行うことも重要な感染対策となります。
なお、プール熱という名前の方が一般的に知られるようになり、プールに入ったら感染してしまうなどというイメージを持っている方もいらっしゃいますが、残留塩素濃度の基準を満たしているプールの水を介して感染することはほとんどありません。
咽頭結膜熱
手足口病
手足口病は、主に夏季に流行する感染症で、例年7月頃に流行のピークを迎えています。年齢別にみると5歳以下が流行の中心であり、感染症発生動向調査の小児科定点医療機関からの報告によると、2歳以下からの報告数が全体の約半数を占めています。従来のCA16およびEV71による手足口では、3~5日間の潜伏期間の後に、口腔粘膜、手掌、足底や足背などの四肢末端に2~3mmの水疱性発疹が出現してきます。発熱は約3分の1に認められますが軽度であり、高熱が続くことは通常はありません。通常は3~7日の経過で軽快し、水疱の跡が痂皮(かさぶた)となることもありません。
一方、近年みられるようになったCA6による手足口病では、水疱が5mm程度と大きく、四肢末端に限局せずに前腕部から上腕部、大腿部から殿部と広範囲に認められ、発熱も39℃を上回ることも珍しくなく、水痘との鑑別が困難な例もあります。また、手足口病を発症して治癒した後に、数週間を経て上下肢の爪が脱落する爪甲脱落症をきたす場合があり、CA6を原因とする手足口病の特徴となっています。感染経路は、飛沫感染、接触感染、糞口感染があげられます。保育園や幼稚園などの乳幼児施設においての流行時の感染予防は手洗いの励行と排泄物の適正な処理が基本となります。
手足口病
監修:大阪府済生会中津病院感染管理室室長 国立感染症研究所感染症疫学センター客員研究員 安井良則氏