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正しい手洗いの方法	正しい手洗いの方法
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 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発症者数は、日本国内においても増え続けています。現状のままでは、特定の地域で患者数のオーバーシュート(いわゆる爆発的増加)が起こり、医療体制が崩壊してしまうことも十分に考えられます。新型コロナウイルス感染症は、たとえ感染しても多くの人は無症状あるいは軽い症状で終わると言われていますが、一方で、肺炎を起こしさらに重症化して人工呼吸管理をしなければ生命にかかわる人も、高齢者や基礎疾患を持った人たちを中心に少なくありません。また中には、若い人たちであっても、一部重症化する方々が出てきています。この感染症の主な感染経路は、飛沫感染と接触感染であると言われており、ヒトからヒトにうつっていく感染症です。いま大変重要なことは、自覚症状なくあるいは軽い症状の人がたくさんの人と接触して、感染させてしまうことを防ぐことです。そのためには、すでに盛んに言われているように、不要不急の外出を避け、必要以上にたくさんの人と接触することは避けてください。自分たちが知らない間に人に感染させてしまったり、あるいは人から感染させられたりすることは、できる限り避けるべきです。

各国の状況

 WHOの発表によると、2020年3月29日現在、世界の患者数は約693,000人、死亡者数は約33,000人を数えています。中国では、患者発生および死亡者数の増加は落ち着きつつあります。しかし、中国以外の地域での患者数が増加しつつあり、特にイタリア・スペイン・フランス・アメリカなどの欧米地域で患者数の急増が見られています。

日本国内の状況

 日本では、1月中から約2ヶ月にわたって患者の国内発生が見られていますが、今のところ欧米諸国のような患者数が急増している地域と比べて、患者数および死亡者数の増加は比較的緩やかです。今のところ医療体制の崩壊も危惧されていません。しかし今後、患者数が全国的に急増するようなことがあれば、死亡者数の急激な増加および医療体制の崩壊につながっていくことも十分に考えられるため、新型コロナウイルス感染症に対する国をあげた対策の手を現時点で緩めるべきではないと思われます。

 日本国内では、いくつかのクラスターの発生が見られていますが、今のところそこから大規模な流行につながることはなく、対処されているように見えます。しかし、クラスター発生から高齢者への感染が起こると、重症例や死亡例が出ることも珍しくはありません。中国の例でも言われていますが、この感染症は、年齢層や基礎疾患の有無によって重篤度が異なる場合が多く、特に発症後に重症化する可能性が高い高齢者層や障害を持った方々をいかに守っていくかということも対策の重要な要素であると思われます。

症状と経過について

 国の専門家会議によると、以下のことが言われています。

 中国からの2020年2月20日時点での報告では、感染が確認された症状のある人の約80%が軽症、13.8%が重症、6.1%が重篤となっています。また、広東省からの2020年2月20日時点の報告では、重症者125名のうち、軽快し退院したものが26.4%、状態が回復しつつある者が46.4%となっています。

 日本国内では、2020年3月18日までに、感染が確認された症状のある人758例のうち、入院治療中の人は579例おり、そのうち、軽症から中等度の人が337名(58.2%)、人工呼吸器を使用または集中治療を受けている人が46名(7.9%)となっています。また、150例(25.9%)は既に軽快し退院しています。また、2020年3月18日までに確認された死亡者数は29名であり、イタリアなどの国と比べて、入院者に占める死亡者数の割合も低く抑えられています。このことは、限られた医療資源のなかであっても、日本の医師が重症化しそうな患者さんの大半を検出し、適切な治療ができているという、我が国の医療の質の高さを示唆していると考えられます。

専門家会議が“重症者を優先する医療体制の構築"を提言

 専門家会議は2020年3月19日の会見の中で、“重症者を優先する医療体制の構築"を提言しています。

 専門家会議によると、重症者を優先する医療体制へ迅速に移行するため、地域の感染拡大の状況に応じて、受診、入院、退院の方針を以下のように変更する検討を進めるべきと判断したとしています。

 ・重症化リスクの高い人(強いだるさ、息苦しさなどを訴える人)または高齢者、基礎疾患のある人については、早めに受診する

 ・(現在は、まん延防止の観点から、入院治療の必要のない軽症者も含めて、感染症法の規定に基づく措置入院の対象としているが)入院治療が必要ない軽症者や無症状の陽性者は、自宅療養とする。ただし、電話による健康状態の把握は継続する

 ・入院の対象を、新型コロナウイルス感染症に関連して持続的に酸素投与が必要な肺炎を有する患者、入院治療が必要な合併症を有する患者その他継続的な入院治療を必要とする患者とする

 ・症状が回復してきたら退院及び自宅待機にて安静とし、電話による健康状態の把握は継続する

 ・また、症状が軽い陽性者等が、高齢者や基礎疾患がある人と同居していて家族内感染のおそれが高い場合は、接触の機会を減らすための方策を検討する。具体的には、症状が軽い陽性者等が宿泊施設等での療養を行うことや、同居家族が受診した上で一時的に別の場所に滞在することなど、家族内感染リスクを下げる取組みを行う

 専門家会議によると、重症患者に対する診療には、特別な知識や環境、医療機器を要するため、診療できる人員と資源を継続的に確保することが重要な課題です。そのため、一般医療機関のうちどの機関が感染者の受入れをするか、あらかじめ決めておく必要があり、その上で、関係医療機関の連携・協力の下、受入病床数を増やすだけでなく、一般医療機関の医療従事者にも新型コロナウイルス感染症の診療に参加していただく支援が不可欠だとしています。上記のような基本的考えに立って、地域の実情に応じた、重症度などによる医療機関の役割分担をあらかじめ決めておくことが重要だとしています。

 今後は、欧米を中心とした世界的なパンデミックへの移行に伴い、海外から日本国内に流入する患者数が大きく増加していると推定され、それに伴って国内の患者数も大きく増加していくことが予想されます。そうなった場合、医療体制が崩壊することを防ぐために、医療機関の医療体制を大きく転換し、重症の患者がしっかりと治療される体制を構築していく必要があります。また、ほとんど症状のない軽症例を、入院または隔離させる専用の医療施設や宿泊所などを設置し、ベッド数を増やしていくことも考慮していく必要があると思われます。最も重要なことは、医療体制の崩壊を防ぐことであり、また、急激に患者数が増えていくことを何としても食い止めていく必要があると思われます。

予防について

 コロナウイルスの感染経路は、飛沫感染と接触感染です。原則として空気感染はありません。最も重要な対策は、咳エチケットと手洗い・アルコール消毒など手指衛生を徹底することです。手洗いが大切な理由は、ドアノブや電車のつり革など様々なものに触れることにより、自分の手にもウイルスが付着している可能性があるからです。外出先からの帰宅時や調理の前後、食事前などこまめに手を洗いましょう。

正しい手洗いの方法

 手洗いは、新型コロナウイルスを含む感染症対策の基本です。

 1.流水でよく手をぬらし、石けんをつける

 2.石けんを泡立てて、手のひらをよくこする

 3.手の甲をしっかりのばすようにこする

 4.指の先・爪の間を念入りにこする

 5.指の間を洗う

 6.親指を反対の手でねじり洗いをする

 7.手首も忘れずに洗う

 8.流水で十分に洗い流す

 9.清潔なタオルやペーパータオルでよく拭き、乾かす

 手を洗う前に時計や指輪など外して、手首までしっかり洗えるようにしましょう。また、爪はなるべく短く切っておきましょう。

感染拡大を避けるために

 自分が発熱や呼吸器症状をきたしている場合は、たとえ症状が比較的軽度であっても、職場や学校など長時間にわたって特定の人と接する場所に行くことをやめ、自宅で休むことを心がけてください。特に、10~30代の若い年齢の方々は、行動範囲が広く、症状に乏しく、自覚することなく周囲の人へ感染を広げてしまう可能性があります。たとえ風邪のような症状だけであっても、不特定多数の人が集まるようなイベント・場所・屋内施設などに行くことはできる限り自粛するようお願いします。

 感染しやすい場所の特徴を理解しましょう。専門家会議によると、これまで集団感染が確認された場所に共通するのは、

 (1)換気の悪い密閉空間

 (2)多くの人が密集していた

 (3)近距離(互いに手を伸ばしたら届く距離)での会話や発声が行われた

 という3つの条件が同時に重なった場所です。こうした場所ではより多くの人が感染していたと考えられます。これらの3つの条件が同時に揃う場所や場面をできるだけ予測し、避ける行動をとりましょう。また、これら3つの条件がすべて重ならないまでも、1つまたは2つの条件があれば、なにかのきっかけで3つの条件が揃うことがあります。3つの条件ができるだけ同時に重ならないようにすることが対策となります。

 見ず知らずの人がたくさんいるところに行くことはできるだけ避けてください。そのうえで、正しい手洗いをきちんと実践し、少しでも感染のリスクを抑えるよう努力しましょう。

正しい情報を発信している人を見つけておく

 ネット上をはじめとして、多くのメディアで情報があふれていますが、どの情報が正しいかを見極めることはとても大切です。

 情報に接した際、その情報は誰が発したものか、出典を必ず確認しましょう。そして、たとえ医者が発言・執筆した内容でも、感染症の専門医でなければ、正しいとは限りません。感染症の専門医や公的な研究機関、厚生労働省などの公的情報を参考にしましょう。「テレビに出てる人が言っていた」、「SNSに書いてあった」というだけで、鵜呑みにするのは危険です。

 また、物資が不足しているなどといった感染症に直接かかわらない情報も、正しいものかをきちんと判断することは大切です。トイレットペーパーやティッシュペーパーが不足している情報がありましたが、厚生労働省が「新型コロナウイルスに関するQ&A(一般の方向け)」の中で、“通常どおりの生産・供給が行われており、今後とも不足する懸念はない"と回答し、日本家庭紙工業会のリリースを掲載しています。むやみに買い占めなどを行うことで、必要な方に物資が届かないといったことが起きるなど、悪循環を生みだしてしまいます。

 過度に心配しパニックになることなく、情報を正しく理解し、自身の感染予防と万が一の際の適切な行動につなげることが、いま最も大切です。

 なお、このサイト、感染症・予防接種ナビ は、感染症の専門家の監修・取材協力により、正しく信頼できる情報発信を目指して運営しています。

■参考リンク:厚生労働省新型コロナウイルスに関するQ&A(一般の方向け)

■参考リンク:厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策専門家会議の見解等(新型コロナウイルス感染症)

■参考リンク:厚生労働省新型コロナウイルス感染症についての相談・受診の目安

監修:大阪府済生会中津病院感染管理室室長 国立感染症研究所感染症疫学センター客員研究員 安井良則氏