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国立感染症研究所 感染症疫学センター 風疹急増に関する緊急情報<br />2019年1月7日現在(掲載日:2019年1月11日) 国立感染症研究所 感染症疫学センター 風疹急増に関する緊急情報
2019年1月7日現在(掲載日:2019年1月11日)
 国立感染症研究所 感染症疫学センターは、2019年1月11日「風疹急増に関する緊急情報:2019年1月7日現在」を公開しました。その全文を掲載します。

 風疹流行に関する緊急情報:2019年1月7日現在
 国立感染症研究所感染症疫学センター

 2018年第1~52週の風疹患者累積報告数は2,917人となり(図1)、第51週までの累積報告数2,806人から111人増加した(図2-1、2-2)。なお、第52週(12月24日~12月30日)までに診断されていても、2019年1月8日以降に遅れて届出のあった報告は含まれないため、直近の報告数の解釈には注意が必要である。2008年の全数届出開始以降では、2018年は2013年に次いで2番目に多く、2017年1年間(93人)の31倍の報告数となった(図3)。2018年第1~52週までに先天性風疹症候群の報告はない。過去には2012年に2,386人、2013年に14,344人の患者が報告され、この流行に関連した先天性風疹症候群が45人確認された(図3)。

 「風しんに関する特定感染症予防指針(厚生労働省告示第百二十二号:平成26年3月28日)」では、「早期に先天性風疹症候群の発生をなくすとともに、平成32年度までに風疹の排除を達成すること」を目標としている。先天性風疹症候群の発生を防ぐためには、妊婦への感染を防止することが重要であり、妊娠出産年齢の女性及び妊婦の周囲の者のうち感受性者を減少させる必要がある。また、現在の風疹の感染拡大を防止するためには、30~50代の男性に蓄積した感受性者を早急に減少させる必要がある。このため、厚生労働省は2019年~2021年度末の約3年間にかけて、これまで風疹の定期接種を受ける機会がなかった昭和37年4月2日~昭和54年4月1日生まれの男性(現在39~56歳)を対象に、風疹の抗体検査を前置した上で、定期接種を行うことを発表した。

 2013年の流行以降は、2014年319人、2015年163人、2016年126人、2017年93人と減少傾向で(図2-1、2-2,3)、2018年は第20週(5月14日~20日)の11人を除き、第29週までは1週間あたり0~7人の範囲で報告されていた(図1)。しかし、第30週(7月23日~29日)に19人、第32週(8月6日~12日)に42人、第34週(8月20日~26日)に99人、第36週(9月3日~9日)に148人と増加し、それ以降の16週間は第42週(10月15日~10月21日)の218人をピークとして、第51週(12月17日~12月23日)まで毎週100人を超える報告数が継続していた。2018年最終週の第52週(12月24日~12月30日)は84人であった(図1)。

 地域別には東京都(945人:第51週から25人増加)、神奈川県(402人:第51週から15人増加)、千葉県(383人:第51週から7人増加)、埼玉県(191人:第51週から8人増加)、福岡県(167人:第51週から7人増加)、大阪府(120人:第51週から5人増加)、愛知県(119人:第51週から増加なし)からの報告が100人以上と多い(図4、図7)。第52週は茨城県(15人)、東京都(14人)からの報告が10人以上と多く、埼玉県、神奈川県(各8人)、千葉県(7人)、福岡県(5人)、大阪府、兵庫県(各4人)、京都府(3人)、宮城県、静岡県、山口県(各2人)からも複数報告された(図5)。人口100万人あたりの患者報告数は全国で22.9人となり、東京都が69.9人で最も多く、次いで千葉県の61.5人、神奈川県44.0人、福岡県32.7人、埼玉県26.3人、茨城県25.0人、佐賀県20.4人、石川県16.5人、愛知県15.9人、山口県15.7人、山梨県15.6人、岡山県14.6人、大阪府13.6人、三重県13.2人、福井県12.7人、山形県11.6人、香川県11.3人、群馬県11.1人、静岡県10.8人、富山県10.3人が続いた。その他、北海道、宮城、新潟、長野、滋賀、京都、兵庫、奈良、和歌山、広島、愛媛、熊本、沖縄の各道府県でも人口100万人あたりの報告数が5.0を超えている(図6)。首都圏での風疹報告数増加が継続する一方で、首都圏以外では中部、近畿、九州地方の大都市圏からの報告が多く、報告がない県は2018年1年間で2県(青森県、大分県)のみである(図7)。

 報告された風疹患者の症状(重複あり)は、多い順に発疹2,875人(99%)、発熱2,610人(89%)、リンパ節腫脹1,757人(60%)、結膜充血1,209人(41%)、関節痛・関節炎726人(25%)、咳633人(22%)、鼻汁492人(17%)、血小板減少性紫斑病13人(0.4%)、脳炎1人(0.04%)であった。その他として、咽頭痛・咽頭炎・咽頭発赤67人、頭痛・頭重感64人、倦怠感40人、肝機能異常14人、腸炎・下痢13人、血小板減少13人、軟口蓋の出血斑・点状出血(Forschheimer斑)11人、筋肉痛8人、悪寒6人、掻痒感6人、嘔気・嘔吐5人、眼脂3人、喀痰3人、白血球減少2人、喉の乾燥感2人、肺炎、髄膜炎、溶血性貧血、胸痛、腹痛、腰背部痛、前腕腫脹、神経痛(各1人)等が報告された。発熱、発疹、リンパ節腫脹の3主徴すべてがそろって報告されたのは1,586人(54%)であった。また、発熱初発日と発疹初発日が報告された2,499人のうち、発熱と発疹が同日に出現した人が1,071人(43%)、発熱より発疹が先に出現した人が267人(11%)、発疹より発熱が先に出現した人が1,161人(46%)であった。

 検査診断の方法(重複あり)は、ウイルス分離・同定30人(1%)、この内3人については遺伝子型の記載があり、1Eが3人であった。PCR法によるウイルス遺伝子の検出1,610人(55%)、この内515人については遺伝子型の記載があり、1Eが484人、2Bが3人、型別不能12人、不明7人、検査中が9人であった。血清IgM抗体の検出は1,542人(53%)で、ペア血清による風疹抗体陽転/有意上昇は71人(2%)であった。

 推定感染源は、2,917人中、特に記載がなかった者が2,118人(73%)と最も多く、不明/不詳/調査中と記載された者が297人(10%)であった。また、何らかの記載があった502人(17%)中、職場の同僚/上司・職場で流行等、「職場」と記載があった者が265人と最多で、家族77人(夫20人、子18人、兄弟15人、父8人、姉妹6人、母5人、父と兄1人、母と兄1人、母と姉1人、その他の家族2人)、旅行/出張39人、コンサート/ライブ/イベント等37人、友人/知人32人、通勤/通学途中/電車23人、学校10人、会議8人、医療機関5人等の記載があった。

 2018年1月から届出票に追加された職業記載欄では、会社員と記載されていた人が1,219人と最も多いが、特に配慮が必要な職種として医療関係者が59人(医療事務/病院事務/薬局事務17人、看護師10人、医師6人、医療機関勤務6人、薬剤師5人、放射線技師3人、歯科医師2人、歯科衛生士2人、歯科助手2人、看護助手2人、理学療法士2人、作業療法士、歯科技工士)、保育士12人、消防士3人が報告された。

 報告患者の96%(2,792人)が成人で、男性が女性の4.3倍多い(男性2,364人、女性553人)(図8,9,10)。男性患者の年齢中央値は41歳(0~85歳)で、特に30~40代の男性に多く(男性全体の63%)、女性患者の年齢中央値は31歳(0~88歳)で、特に妊娠出産年齢である20~30代に多い(女性全体の60%)(図10)。

 予防接種歴は、なし(755人:26%)あるいは不明(1,969人:68%)が93%を占める(図8,9)。また、接種歴有り(193人:7%)と報告された者のうち、接種年月日・ロット番号ともに報告されたのは34人、接種年月日のみが報告されたのは32人、接種年月のみが報告されたのは2人、接種年のみが報告されたのは5人、接種年月日・ロット番号ともに不明が122人であった。

 国外での感染が推定される症例は27人(1%)と少ない(図11)。

 風疹はワクチンによって予防可能な疾患である。今回報告を受けている風疹患者の中心は、過去にワクチンを受けておらず、風疹ウイルスに感染したことがない抗体を保有していない集団である。予防接種法に基づいて、約5,000人規模で毎年調査が行われている感染症流行予測調査の2017年度の結果を見ると、成人男性は30代後半(抗体保有率(HI抗体価1:8以上):84%)、40代(同:77~82%)、50代前半(同:76%)で抗体保有率が特に低い(図12,13,14-1)。2018年の風疹患者報告の中心もこの年齢層の成人男性であることから(図15)、この集団に対する対策が必要である。一方、妊娠出産年齢の女性の抗体保有率(HI抗体価1:8以上)は概ね95%以上で高く維持されていたが、妊婦健診で低いと指摘される抗体価(HI抗体価<1:8,1:8,1:16)の割合は20代前半で20%、20代後半で24%、30代前半で16%、30代後半で12%、40代前半で16%、40代後半で19%存在することから(図14-2)、特に妊娠20週頃までの妊婦の風疹ウイルス感染には注意が必要である。

 日本において風疹ワクチンは、1977年8月~1995年3月までは中学生の女子のみが定期接種の対象であった(図16)。1989年4月~1993年4月までは、麻疹ワクチンの定期接種の際に、麻疹おたふくかぜ風疹混合(MMR)ワクチンを選択しても良いことになった。当時の定期接種対象年齢は生後12か月以上72か月未満の男女であった。1995年4月からは生後12か月以上90か月未満の男女(標準は生後12か月~36か月以下)に変更になり、経過措置として12歳以上~16歳未満の中学生男女についても定期接種の対象とされた。2001年11月7日~2003年9月30日までの期間に限って、1979年4月2日~1987年10月1日生まれの男女はいつでも定期接種(経過措置分)として受けられる制度に変更になったが、接種率上昇には繋がらなかった。2006年度から麻疹風疹混合(MR)ワクチンが定期接種に導入され、1歳と小学校入学前1年間の幼児(6歳になる年度)の2回接種となり、2008~2012年度の時限措置として、中学1年生(13歳になる年度)および高校3年生相当年齢(18歳になる年度)の者を対象に、2回目の定期接種が原則MRワクチンで行われた。

 これらのワクチン政策の結果、近年の風疹患者の中心は小児から成人へと変化している。妊娠20週頃までの女性が風疹ウイルスに感染すると、胎児にも風疹ウイルスが感染して、眼、耳、心臓に障害をもつ先天性風疹症候群の児が生まれる可能性がある。妊娠中は風疹含有ワクチンの接種は受けられず、受けた後は2か月間妊娠を避ける必要があることから、女性は妊娠前に2回の風疹含有ワクチンを受けておくこと、妊婦の周囲の者に対するワクチン接種を行うことが重要である。

 また、2013年の流行時には64人の血小板減少性紫斑病と11人の脳炎合併が報告されたが、2018年は1年間に13人の血小板減少性紫斑病と1人の脳炎合併が報告された。30~50代の男性で風疹に罹ったことがなく、風疹含有ワクチンを受けていないか、あるいは接種歴が不明の場合は、早めにMRワクチンを受けておくことが奨められる。風疹の抗体検査、風疹含有ワクチン接種に対する費用助成をしている自治体が増加している。居住地の自治体のホームページ等を確認して、対象者に該当する場合は、風疹の抗体検査、風疹含有ワクチンの接種を積極的に受ける事が望ましい。風疹はワクチンで予防可能な感染症である。

<※本文に添付の図は、出典先のpdfをご覧ください>
▼出典 国立感染症研究所 感染症疫学センター 「風疹急増に関する緊急情報:2019年1月7日現在」2019年1月11日掲載