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画像:首都圏における風疹急増に関する緊急情報:2018年8月15日現在<br/> 国立感染症研究所 感染症疫学センター(掲載日:2018年8月21日) 画像:首都圏における風疹急増に関する緊急情報:2018年8月15日現在
国立感染症研究所 感染症疫学センター(掲載日:2018年8月21日)
 8月21日、緊急情報として国立感染症研究所 感染症疫学センターは、「首都圏における風しん急増に関する緊急情報:2018年8月15日現在」を公開し、風しん及び先天性風しん症候群に対する注意を呼びかけています。これまで、「風しん」の患者報告数が関東地方を中心に大幅に増加していることがわかり、厚生労働省は8月14日、各都道府県をはじめとする自治体へ向け注意喚起を出しました。

 更に、日本産婦人科医会及び、"風しん"ゼロプロジェクトは、8月17日、風しん流行の兆しあり!!として、風しん流行の兆しが首都圏中心にみられているとの警告が厚生労働省より発出されたことを受けて、2013年の大流行の前兆に類似した状況になっていることから、緊急に警告を発していました。

患者発生動向

 2018年風しんの患者報告数は、2018/8/6~8/12(第32週)までに139人。2015~2017年の同時期における報告数を超え、さらに2016年及び2017年の年間累積報告数を超えました。

 過去には2012年に2,386人、2013年に14、344人の患者が報告され、この流行に関連した先天性風しん症候群が45人確認されています。

 IDWRの速報データによると
 2018/7/23~7/29(第30週)は報告数が19人。
 2018/7/30~8/5(第31週)は報告数が22人。
 2018/8/6~8/12(第32週)は報告数が39人。

 ※前週(第31週累積患者報告数)と比較して、第32週の累積患者報告数は43人の増加となっています。

 「風しんに関する特定感染症予防指針(厚生労働省告示第百二十二号:平成26年3月28日)」では、「早期に先天性風しん症候群の発生をなくすとともに、2020年度(平成32年度)までに風しんの排除を達成すること」を目標としています。

先天性風しん症候群とは

 妊娠20週頃までの女性が風しんウイルスに感染すると、胎児にも風しんウイルスが感染して、眼、耳、心臓に障害をもつ先天性風しん症候群の児が生まれる可能性があります。妊娠中は風しん含有ワクチンの接種は受けられず、受けた後は2か月間妊娠を避ける必要があることから、女性は妊娠前に2回の風しん含有ワクチンを受けておくこと及び妊婦の周囲の者に対するワクチン接種を行うことが重要です。また、30~50代の男性で風しんに罹ったことがなく、風しん含有ワクチンを受けていないか、あるいは接種歴が不明の場合は、早めにMRワクチンを受けておくことが奨められます。風しんはワクチンで予防可能な感染症です。

先天性風しん症候群の発生を防ぐためには

 妊婦への感染を防止することが重要であり、妊娠出産年齢の女性及び妊婦の周囲の者のうち感受性者を減少させる必要があります。また、風しんの感染拡大を防止するためには、30~50代の男性に蓄積した感受性者を減少させる必要があります。

患者報告数 年別

 2013年の流行以降は、2014年319人、2015年163人、2016年126人、2017年93人と減少傾向で、2018年は第20週(5月14日~20日)の11人を除き、第29週までは1週間あたり0~6人の範囲で報告されていました。しかし、第30週(7月23日~29日)に19人、第31週(7月30日~8月5日)に22人と増加し、第32週(8月6日~12日)には39人と急増しました。

患者報告数 地域別情報

 千葉県及び東京都からの報告が多く、第32週(8月12日)までの累積報告数はそれぞれ41人及び39人と、全体の58%がこの2都県からの報告でした。その他の道府県からは10人未満の報告数でした。

患者報告数 都道府県別多い順

 2018/8/15時点の速報データによる都道府県別累積患者報告数
 ・千葉県(41人)
 ・東京都(39人)
 ・埼玉県(9人)
 ・福岡道(7人)
 ・北海道(6人)
 ・神奈川県(5人)、愛知県(5人)
 ・兵庫県(4人)、広島県(4人)

患者報告数 年齢別

 報告患者の91%(127人)が成人で、男性が女性の約3倍多く報告されています (男性107人、女性32人)。特に30~40代の男性に多く(63%)、女性は20代に多い(41%)です。予防接種歴は無し(21人:15%)、あるいは不明(97人:70%)が大半を占めます。

 国外での感染が推定される症例は10人(7%)と少なく、既に、首都圏を中心に国内流行が発生し始めている可能性が高いと考えられます。

風しん患者の傾向

 風しんは、ワクチンによって予防可能な疾患です。今回報告を受けている風しん患者の中心は、過去にワクチンを受けておらず、風しんウイルスに感染したことがない抗体を保有していない集団です。予防接種法に基づいて、約5,000人規模で毎年調査が行われている感染症流行予測事業の2017年度の結果を見ると、成人男性は30代後半(抗体保有率(HI抗体価1:8以上):84%)、40代(同:77~82%)、50代(同:76~88%)で抗体保有率が低くなっています。今回報告を受けている風しん患者の中心も成人男性であることから、この集団に対する対策が必要です。

日本における風しん含有ワクチン定期接種制度

 1977年8月~1995年3月までは中学生の女子のみが定期接種の対象でした。1989年4月~1993年4月までは、麻しんワクチンの定期接種の際に、麻しんおたふくかぜ風しん混合(MMR)ワクチンを選択しても良いことになりました。当時の定期接種対象年齢は、生後12か月以上72か月未満の男女でした。1995年4月からは生後12か月以上90か月未満の男女(標準は生後12か月~36か月以下)に変更になり、経過措置として12歳以上~16歳未満の中学生男女についても定期接種の対象とされました。2001年11月7日~2003年9月30日までの期間に限って、1979年4月2日~1987年10月1日生まれの男女はいつでも定期接種(経過措置分)として受けられる制度に変更になりましたが、接種率上昇には繋がりませんでした。2006年度から麻しん風しん混合(MR)ワクチンが定期接種に導入され、1歳と小学校入学前1年間の幼児(6歳になる年度)の2回接種となり、2008~2012年度の時限措置として、中学1年生(13歳になる年度)あるいは高校3年生相当年齢(18歳になる年度)の者を対象に、2回目の定期接種が原則MRワクチンで行われました。

 これらのワクチン政策の結果、近年の風しん患者の中心は小児から成人へと変化しています。

妊娠初期(20週頃まで)の女性が風しんウイルスに感染した後、出生児が先天性風しん症候群になる確率

 妊娠初期の女性が風しんにかかると、生まれてくる赤ちゃんが「先天性風しん症候群」になる確率は、妊娠1か月で50%以上です。赤ちゃんが生まれながら持つ病気「先天性風しん症候群」。この病気から未来の赤ちゃんを守るために、妊娠を望む女性はもちろん、みんなでその症状や原因を理解し、風しんを予防していくことが大切です。

 厚生労働省からの注意喚起にも「特に妊婦を守る観点から、診療に関わる医療関係者、これまで風しんにかかっていない者、風しんの予防接種を受けていない者及び妊娠を希望する女性等への注意喚起等、風しんに対する一層の対策の実施をお願いします」とあり、特に、患者報告数の多い30代から50代の男性は、風しんにかかったことがあることが検査で確認されている、風しんの予防接種を受けたことが1歳以上で2回ある又は風しんに対する抗体が陽性であると確認ができている者を除いた者に対して、任意で風しんの予防接種(原則、麻しん風しん混合(MR)ワクチンが奨められています)を受けることについて検討を呼び掛けています。

風しんの症状

 風しんは、発熱、発疹、リンパ節腫脹を特徴とするウイルス性発疹症です。症状が現れない不顕性感染から、重篤な合併症(脳炎や血小板減少性紫斑病)併発まで幅広く、臨床症状のみで風しんと診断することは困難な疾患です。男女ともにワクチンを受けて、まず風しんの流行を抑制し、女性は感染予防に必要な免疫を妊娠前に獲得しておくことが重要です。そのためには1歳以上で2回の予防接種を受けておくことが求められています。

風しんについて詳しく見る

風しんの抗体検査について(一問一答)|感染症・予防接種ナビ

MR(麻しん・風しんワクチン)|感染症・予防接種ナビ