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概要

 麻しんは「はしか」とも呼ばれ、パラミクソウイルス科に属する麻しんウイルスの感染によって起こる急性熱性発疹性の感染症です。麻しんウイルスは人のみに感染するウイルスであり、感染発症した人から人へと感染していきます。感染力は極めて強く、麻しんに対して免疫がない人が麻しんウイルスに感染すると、90%以上が発病し、不顕性感染は殆どないことも特徴の1つです。

 江戸時代までの日本では麻しんは「命定め」の病として怖れられていました。現在ではビタミンAが不足すると麻しんの重症化を招きやすいことが知られており、発展途上国ではその死亡率が10〜30%に達する場合があると言われています。我が国においても麻しんは最近まで度々大きな流行を繰り返していましたが、ワクチンの接種率の向上や多くの関係者の努力により、国内の麻しんの発症者数は大きく減少しました。そして2015年3月27日、WHO西太平洋事務局(WPRO)は過去3年間にわたって日本国内には土着の麻しんウイルスは存在していないとして我が国が「麻しんの排除状態にある」ことを認定しました。

麻しんの詳細について動画で詳しく紹介

疫学

 かつて麻しんは世界中で流行がみられていました。まだ世界中に麻しんワクチンが普及していなかった1980年頃までは、年間約260万人もの人が麻しんによって命を落としていました。その後ワクチンの世界的な普及により、麻しんによる年間死亡者数は大きく減少して2000年には544,200人に、2013年には14,5700人となっています。現在麻しん患者が多く発生しているのはワクチンの接種率が低い発展途上国であり、死亡例の大半は5歳未満の乳幼児です。

 日本は欧米等の先進国と較べて麻しんの対策は遅れ、1990年台に入ってもしばしば麻しんの大きな流行が発生し、2001年の年間の推定罹患者数は約286,000人とされています。その後1歳早期での麻しん含有ワクチン接種率の向上に向けた取り組みや、2回接種制度の導入等の取り組みがなされ、国内の麻しん罹患者数は大きく減少しました。2008年以降、麻しんの発生動向はそれまでの定点医療機関からの報告によっていたものが全医療機関からに変わりました。2008年の麻しんの年間報告数は11,012人でしたが2012年、2013年、2014年はそれぞれ238人、229人、462人となっています。2014年の麻しん報告数の増加は2013年末からみられたフィリピンを中心としたアジア諸国からの麻しん輸入例の増加に起因するものであり、2014年第18週(ゴールデンウイーク)頃より報告数は減少し、2015年4月までの報告数は過去7年間で最低の報告数となっています(図)。年齢群別にみると、2008年度から5年間の時限措置で実施された中学1年生(第3期)と高校3年生相当年齢の者(第4期)へのMRワクチン接種が功を奏したため、10代の患者数は激減し、同時に10歳未満の患者数も減少しました。20歳以上の割合は2008年33%、2009年36%、2010年37%、2011年48%、2012年58%、2013年70%、2014年47%でした。

症状

 麻しんウイルスの感染後、10〜12日間の潜伏期の後に発熱や咳などの症状で発症します。38℃前後の発熱が2〜4日間続き、倦怠感、咳、鼻みず、くしゃみなどの上気道炎症状と結膜炎症状(結膜充血、眼脂など)が現れて次第に増強していきます。乳幼児では下痢、腹痛等の消化器症状を伴うことも少なくありません。この病初期の段階を『カタル期(または前駆期)』と呼んでいます。コプリック斑はこの病初期の段階に出現する(コプリック斑が出現するのは全身の発疹が出現する1〜2日前)麻しんに特徴的な頬粘膜(口のなかの頬の裏側)にやや隆起した1mm程度の小さな白色の小さな斑点です。コプリック斑を見つけることによって、全身に発疹が出現する前に臨床的に麻しんと診断することが可能です。カタル期を過ぎると一旦解熱傾向となり、半日程度経過した後に高熱(多くは39℃以上)をきたすようになると同時に体表面に発疹が出現してきます。発疹は耳介後部、頚部、前額部から出始め、翌日には顔面、体幹部、上腕におよび、2日後には四肢末端にまで至ります。発疹ははじめ鮮紅色扁平ですが、まもなく皮膚面より隆起し、融合して不整形斑状(斑丘疹)となります。指圧によって退色し、一部には健常皮膚が残っています。次いで暗赤色となり、出現順序に従って退色していきます。この時期には高熱が続き、上気道炎や結膜炎の症状がより一層強くなります。この病態を示す時期を『発疹期』と呼びます。発疹出現から3〜4日間続いた高熱は軽減して解熱傾向となり、上気道炎や結膜炎症状も軽減し、発疹は黒ずんだ色素沈着へと移行し、合併症等で重篤化していなければ発症後7〜10日後に回復していきます。この期間を『回復期』と呼びます。しかし、麻しんを発症した場合はリンパ球機能などの免疫力が低下するため、しばらくは他の感染症に罹ると重症になりやすく、また体力等が戻って来るには結局1か月位を要することが珍しくありません。また、麻しんは発熱が1週間継続し、他の症状も強いため、たとえ合併症をきたさなくても入院を要することが少なくありません。完全に回復するまでには時間を要すること、また下記にあげるような合併症をきたす場合があること等を考慮すると、麻しんは未だに罹患した場合は重症な感染症であるといえます。

合併症

 麻しんにはさまざまな合併症がみられ、全体では30%にも達するとされます。その約半数が肺炎で、頻度は低いものの脳炎の合併例もあり、特にこの二つの合併症は麻しんによる二大死因となり、注意が必要です。麻しんの合併症には以下にあげるものがあります。

ア)肺炎:麻しんの合併症で最も多いのは肺炎です。麻しんの肺炎には「ウイルス性肺炎」「細菌性肺炎」「巨細胞性肺炎」の3種類があります。
○ウイルス性肺炎:ウイルスの増殖にともなう免疫反応・炎症反応によって起こる肺炎であり、病初期に認められることが多いです。
○細菌性肺炎:細菌の二次感染による肺炎です。発疹期を過ぎても解熱しない場合に考慮すべきもので、原因菌としては、一般的な呼吸器感染症起炎菌である肺炎球菌、インフルエンザ菌、化膿レンサ球菌、黄色ブドウ球菌などが多くみられます。抗菌薬投与による治療が必要です。
○巨細胞性肺炎:細胞性免疫不全の状態の時に麻しんを発症した場合にみられる肺炎です。肺で麻しんウイルスが持続感染した結果生じるもので、予後不良であり、死亡例も多いです。発症は急性または亜急性で、発疹は出現しないことが多くあります。

イ)中耳炎:細菌の二次感染により生じ、麻しん患者の約5〜15%にみられ、肺炎と並んで頻度の多い合併症です。乳幼児では症状を訴えないため、中耳からの膿性耳漏で発見されることがあり、注意が必要です。

ウ)クループ症候群:クループ症候群の原因である喉頭炎および喉頭気管支炎は乳幼児の麻しんの合併症として多くみられるもののひとつです。麻しんウイルスによる炎症と細菌の二次感染による場合があります。吸気性呼吸困難が強い場合には、気管内挿管による呼吸管理が必要になる場合があります。

エ)脳炎:麻しんを発症した1,000例に0.5〜1例の割合で脳炎を合併します。発生頻度は高くはありませんが、肺炎とともに麻しん発症者の主要な2大死因の1つとされており、要注意です。発疹出現後2〜6日頃に発症することが多く、麻しんそのものの症状の重症度と脳炎発症には相関は認められません。脳炎発症患者の約60%は完全に回復しますが、20〜40%に中枢神経系の後遺症(精神発達遅滞、痙攣、行動異常、神経聾、片麻痺、対麻痺)を残し、致死率は約15%です。

オ)亜急性硬化性全脳炎(SSPE):麻しんに罹患して治癒した後7〜10年後に発症する中枢神経疾患であり、M蛋白が変異した麻しんウイルスの中枢神経系への持続感染によって発症するといわれています。発症の頻度は麻しん罹患者10万例に1人と極めて低いですが、知能障害、運動障害が徐々に進行し、ミオクローヌスなどの錐体・錐体外路症状を示し、発症から平均6〜9か月で死の転帰をとる、進行性の予後不良疾患です。この疾患の本態は未だに不明であり、有効な治療方法はありません。

感染経路

 麻しんは麻しんウイルスが人から人へ感染していく感染症であり、他の生物は媒介しません。人から人への感染経路としては空気(飛沫核)感染の他に、飛沫感染、接触感染もあります。麻しんは空気感染によって拡がる代表的な感染症であり、その感染力は強く、1人の発症者から12〜14人に感染させるといわれています。麻しん発症者が周囲の人に感染させることが可能な期間(感染可能期間)は、発熱等の症状が出現する1日前から発疹出現後4〜5日目くらいまでです。学校保健安全法施行規則では、麻しんに罹患した場合は解熱後3日間を経過するまで出席停止とされています。

予防

 麻しんは空気(飛沫核)感染する感染症です。麻しんウイルスの直径は100〜250nmであり、飛沫核の状態で空中を浮遊し、それを吸い込むことで感染しますので、マスクを装着しても感染を防ぐことは困難です。麻しんの感染発症を防ぐ唯一の予防手段は、予めワクチンを接種して麻しんに対する免疫を獲得しておくことです。

麻しん予防について動画で詳しく紹介

麻しんの合併症

 麻しんに伴ってさまざまな合併症がみられ、全体では30%にも達するとされます。その約半数が肺炎で、頻度は低いものの脳炎の合併例もあり、特にこの二つの合併症は麻しんによる二大死因となり、注意が必要です。麻しんの合併症には以下のものがあります。

(1)肺炎
麻しんの肺炎には「ウイルス性肺炎」「細菌性肺炎」「巨細胞性肺炎」の3種類があります。
■ウイルス性肺炎…ウイルスの増殖にともなう免疫反応・炎症反応によって起こる肺炎です。病初期に認められ、胸部X線上、両肺野の過膨張、び漫性の浸潤影が認められます。また、片側性の大葉性肺炎の像を呈する場合もあります。
■細菌性肺炎…細菌の二次感染による肺炎です。発疹期を過ぎても解熱しない場合に考慮すべきもので、原因菌としては、一般的な呼吸器感染症起炎菌である肺炎球菌、インフルエンザ菌、化膿レンサ球菌、黄色ブドウ球菌などが多くみられます。抗菌薬により治療されます。
■巨細胞性肺炎…成人の一部、あるいは特に細胞性免疫不全状態時にみられる肺炎です。肺で麻しんウイルスが持続感染した結果生じるもので、予後不良であり、死亡例も多いものです。発症は急性または亜急性で、発疹は出現しないことが多くあります。胸部レントゲン像では、肺門部から末梢へ広がる線状陰影がみられます。本症では麻しん抗体は産生されにくく、長期間にわたってウイルスが排泄されます。

(2)中耳炎
細菌の二次感染により生じ、麻しん患者の約5〜15%にみられる最も多い合併症の一つです。乳幼児では症状を訴えないため、中耳からの膿性耳漏で発見されることがあり、注意が必要です。乳様突起炎を合併することがあります。

(3)クループ症候群
クループ症候群の原因である喉頭炎および喉頭気管支炎は小児(特に乳幼児)の麻しんの合併症として多くみられるもののひとつです。麻しんウイルスによる炎症と細菌の二次感染による場合があります。吸気性呼吸困難が強い場合には、気管内挿管による呼吸管理を要します。

(4)心筋炎
心筋炎、心外膜炎をときに合併することがあります。麻しんの経過中半数以上に、一過性の非特異的な心電図異常が見られるとされますが、重大な結果になることは稀です。

(5)脳炎
麻しんを発症した1,000例に0.5〜1例の割合で脳炎を合併します。発生頻度は中耳炎や肺炎のようには高くはありませんが、肺炎とともに死亡の原因となり、注意を要します。発疹出現後2〜6日頃に発症することが多く、髄液所見としては、単核球優位の中等度細胞増多を認め、蛋白レベルの中等度上昇、糖レベルは正常かやや増加します。麻しんそのものの症状の重症度と脳炎発症には相関は認められません。脳炎発症患者の約60%は完全に回復しますが、20〜40%に中枢神経系の後遺症(精神発達遅滞、痙攣、行動異常、神経聾、片麻痺、対麻痺)を残し、致死率は約15%です。

(6)亜急性硬化性全脳炎(subacute sclerosing panencephalitis:SSPE)
麻しんに罹患して治癒した後7〜10年後に発症する中枢神経疾患です。M蛋白が変異した麻しんウイルスの中枢神経系への持続感染によって発症するといわれています。発症の頻度は麻しん罹患者10万例に1人と極めて低いですが、知能障害、運動障害が徐々に進行し、ミオクローヌスなどの錐体・錐体外路症状を示します。通常発症から数年の経過を経て死の転帰をとる、進行性の予後不良疾患です。この疾患の本態は未だに不明です。有効な治療方法はありません。

修飾麻しんとは

 麻しんに対する免疫は持っているけれども、不十分な人が麻しんウイルスに感染した場合、軽症で非典型的な麻しんを発症することがあります。このような場合を『修飾麻しん』と呼んでいます。例えば、潜伏期が延長する、高熱が出ない、発熱期間が短い、コプリック斑が出現しない、発疹が手足だけで全身には出ない、発疹は急速に出現するけれども融合しない、などです。感染力は弱いものの周囲の人への感染源になるので注意が必要です。通常合併症は少なく、経過も短いため、風疹など他の発熱発疹性疾患と誤診されることもあります。以前は母体由来の移行抗体が残存している乳児や、ヒトガンマグロブリン製剤を投与された後に見られていました。最近では、麻しんワクチン既接種者が、その後長期間麻しんウイルスに曝露せず、ブースター効果(免疫増強効果)が得られないままに体内での麻しん抗体が減衰して麻しんに罹患する場合〔このような人をsecondary vaccine failure(SVF)と呼びます〕が多く見られるようになっています。

ワクチンについて

 日本では、麻しんウイルスに弱毒生ワクチンである麻しんワクチンの定期接種は1978年に始まりました。1989年には麻しんおたふくかぜ風しん混合ワクチン(MMRワクチン)を麻しんの定期接種の際に使用してもよいことになりましたが、おたふくかぜワクチン株に起因する無菌性髄膜炎の多発により、1993年にMMRワクチンの日本国内での接種は中止となりました。2006年4月から麻しん風しん混合ワクチン(MRワクチン)が定期接種に導入され、同年6月からは2回の定期接種(1歳時の第1期および小学校入学前1年間の第2期)が始まりました。

 MRワクチンは弱毒生麻しんウイルスと弱毒生風疹ウイルスを別々に培養細胞で増殖させ、得られたウイルス液に安定剤を加えて混合し、凍結乾燥させたワクチンです。 MRワクチン接種後の副反応として主なものは発熱と発疹ですが、第2期以降ではその割合は大きく減少しています。かつての麻しんワクチンと風しんワクチン接種後の重篤な副反応としては急性散在性脊髄脳炎(ADEM)や脳炎・脳症が100万〜150万人に1 人以下、急性血小板減少性紫斑病(100万人に1人程度)が知られており、MMRワクチンの接種後にもごく稀に生ずる可能性があります。

 我が国では2007年にまだワクチンを接種していない人や、1回接種している10〜20歳代の人を中心とした麻しんの全国的な流行がみられました。同年12月28日に「麻しんに関する特定感染症予防接種指針」が厚生労働大臣から告示され、5年間の期限での 中学1年生、高校3年生相当年齢の者を対象とした2回目の麻しん含有ワクチンの接種機械の提供や、2006年から開始された第1期、第2期のワクチン接種率向上に向けた取り組み等が全国的に実施されました。そして前述したように、2015年3月に漸く我が国はWPROによって我が国は「麻しんの排除状態にある」ことが認定されました。

MRワクチンについて動画で詳しく紹介

参考資料として
・Measles Fact sheet. WHO ホームページ
http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs286/en/
・国立感染症研究所ホームページ
http://www.nih.go.jp/niid/ja/from-idsc.html
・岡部信彦,多屋馨子:予防接種に関する Q&A 集.一般社団法人日本ワクチン産業協会,2014年
・Control of Communicable Diseases Manual 19th Edition. An official report of the American Public Health Association: 2008
・Communicable Disease Control and Health Protection Handbook the 3rd Edition.Hawker J. MD., Begg N. MD., et al: Blackwell Publishing Ltd. 2012
監修:大阪府済生会中津病院感染管理室室長 国立感染症研究所感染症疫学センター客員研究員 安井良則氏
更新:2015/5