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腸管出血性大腸菌感染症の症状と合併症

 感染後3〜5日間の潜伏期間を経て、激しい腹痛を伴う頻回の水様性の下痢が起こり、その後で血便となります(出血性大腸炎)。発熱は軽度です。血便は、初期段階では、少量の血液の混入で始まりますが、次第に血液の量が増加し、典型例では血液そのもののような状態となります。

 発病者の6〜9%では、下痢などの最初の症状が出てから5〜13日後に溶血性尿毒症症候群(HUS)や脳症などの重篤な合併症をきたすことが知られています。HUSを合併した場合の致死率は3〜5%といわれています。

概要

 大腸菌は、哺乳類や鳥類の主に大腸に生息している細菌で、菌の表面にある抗原(O抗原と呼びます)によって約180種類に分類されます。殆どの大腸菌は、例えヒトの大腸内にあっても無害ですが、一部にヒトに対して病原性を示すものがあります。

 腸管出血性大腸菌(EHEC:enterohemorrhagic E. coli)とは、ベロ毒素(VT:Verotoxin、VT1とVT2があります)を作り出す能力を持った大腸菌のことです。

 腸管出血性大腸菌の感染によって血便を伴う激しい下痢や、重篤な合併症である溶血性尿毒症症候群(HUS:Hemolytic uremic syndrome)や脳症となり、生命に関わる場合もあることはよく知られています。O抗原で分類される大腸菌O157は、腸管出血性大腸菌として有名ですが、たとえO157であってもベロ毒素を産生できなければ腸管出血性大腸菌ではありません。

 O157の他に、O26、O121、O111などが腸管出血性大腸菌としてよく知られていますが、最近ではドイツで多数の患者と重症例を発生させたO104も紹介されています。

 腸管出血性大腸菌は、ヒトの体内で常在する大腸菌ではなく、牛や羊などの家畜や他の動物が保菌しています。牛の生肉や生のレバー等を食べることは感染してしまう可能性が高くなります。

ベロ毒素の作用

 ベロ毒素(VT)は細胞を障害し、破壊してしまう作用があり、腸管粘膜の上皮細胞が障害されることによって下痢や血便が起こります。

 ベロ毒素によって腎臓をはじめとする毛細血管の内皮細胞が障害されることによって、急性腎不全、溶血性貧血、血小板減少の3つを特徴とする溶血性尿毒症症候群(HUS)が発生します。脳や脊髄の神経細胞が障害されることによって脳症が発生するといわれています。

 腸管出血性大腸菌に感染・発症後、ベロ毒素の作用によって続発してくるHUSの合併を防ぐ有効な手段はありません。発症後2週間は慎重に経過観察を行う必要があります。

腸管出血性大腸菌感染症の合併症

溶血性尿毒症症候群、脳症
・血便や強い腹痛があるときは、腸管出血性大腸菌感染症の可能性も疑いましょう
・顔色が悪い、尿の色が濃い、尿量減少、むくみなどは合併症併発の徴候かも
・けいれん、意識状態の変化は、さらに危険な徴候です

腸管出血性大腸菌感染症の治療

 腸管出血性大腸菌感染症の治療は、点滴等による電解質や水分の補給が中心となります。

 下痢止め(止痢剤)は、腸管の内容物の停滞時間を延長し、ベロ毒素の体内への吸収を助長し、HUSが発生する可能性を高めてしまうとされているので、使用すべきではありません。

 抗菌薬を投与すべきか否かについては、実は意見が分かれていて、世界的にも定まってはいません。日本では早期にホスミシンを投与することでHUSの発症率を下げる可能性があるとの報告もあり、国内では抗菌薬が投与されることが多いです。

 HUSを発症した場合は、輸液や電解質の管理を厳重に行い、腎不全が悪化して尿が出なくなってきた場合は透析が必要となります。

腸管出血性大腸菌感染症の感染経路と対策@

 主な感染経路は、腸管出血性大腸菌によって汚染された食材や水分を経口摂取することによる経口感染です。

 例年、腸管出血性大腸菌の感染者の報告数は、0〜4歳児が最多です。5〜9歳がこれに次いで多い状況です。感染後の発症率も9歳以下は80%前後と高くなっています。

 牛の生肉や生レバーなどの内臓は、腸管出血性大腸菌の感染の可能性があるので食べるべきではありませんが、特に保育所に通っている年齢群の乳幼児では厳禁です。特に高齢者や乳幼児と日常的に接触する職業や立場の人(家庭も含めて)、あるいは免疫力の低下した人と接触する職業・立場の人は厳に慎むべきです。

腸管出血性大腸菌感染症の感染経路と対策A

 腸管出血性大腸菌は75℃で1分間過熱で死滅するので、園児への食事はしっかりと過熱したものを供することが基本です。また焼肉などでは、生肉を扱った箸やトングなどは生食用のものと使い分けましょう。

 以前より野菜類(生野菜はもとより浅漬けなど)やそれ以外の加工食品(最近ではお団子の食中毒)での集団発生がみられることがあります。

 施設に提供され、そのまま加熱処理等が行われないままに供される食材の衛生管理は、納入業者と連携してしっかりと行われなければなりません。

監修:大阪府済生会中津病院感染管理室室長 国立感染症研究所感染症疫学センター客員研究員 安井良則氏
更新:2016/08