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 B型肝炎は、DNA型ウイルスであるB型肝炎ウイルス(HBV)によって引き起こされるウイルス性肝炎です。現在、世界の約4億人に持続感染していると考えられており、我が国では100-130万人がHBVに持続感染していると推定されています。HBVは血液・体液を介して感染し、感染した時期、感染時の宿主の免疫能によって、一過性感染に終わるものと持続感染するものとに大別されます。

概要

 2002年の世界保健機関(WHO)の推計では、B型肝炎ウイルス(HBV)感染者は世界中で20億人、HBV持続感染者は3.5億人、年間50-70万人の人々がHBV関連疾患で死亡していると報告しています。HBVキャリア(キャリアとは:病原性のウイルスを体内に保有している人のこと)が人口の8%以上のいわゆる高頻度国は、アジアとアフリカに集中しています。これに対し、日本、ヨーロッパ、北米などは感染頻度2%以下の低頻度国です。日本におけるHBVキャリア数を推測したところ、90万人でした。(40歳以下は2001~2006年の日赤血液センターでの初回献血者集団においてHBs抗原陽性率を求めた結果から、40歳以上は節目検診受診者集団から得た値を用いて算出)これは初回献血者集団および肝炎ウイルス検診受診者集団をもとにした値ということから、「自身の感染を知らないキャリア」と考えられます。HBVの持続感染は出生時または乳幼児期の感染によって成立し、成人期初感染では、消耗性疾患・末期癌などの免疫不全状態を除けば、持続感染化することはまれです。持続感染が成立した場合、大部分は肝機能正常なキャリアとして経過し、その後免疫能が発達するに従い、顕性(病原体やウイルスに感染し、感染症状が現れた状態)または不顕性(感染していながら臨床的に確認しうる症状を示さず健康にみえる状態)の肝炎を発症します。そのうち85~90%はセロコンバージョン(ウイルス抗原が陰性となり、抗体が陽性となること)を起こし、最終的に肝機能正常の無症候性キャリアへ移行します。残り10~15%が慢性肝疾患(慢性肝炎、肝硬変、肝細胞癌)へ移行し、肝機能異常を持続します。一過性感染の場合、70~80%は不顕性感染で終わるものの、残りの20~30%のケースでは急性肝炎を発症します。このうち約2%が劇症肝炎を発症し、この場合の致死率は約70%とされています。

症状

 急性B型肝炎は比較的緩やかに、徐々に発病します。微熱程度の発熱、食欲不振、全身倦怠感、悪心・嘔吐、右季肋部痛、上腹部膨満感などの症状がみられ、引き続き黄疸が認められるようになります。黄疸が出現するのは成人例で30~50%、小児例では10%以下で、重症例を除いて、これらの症状は一か月程度で回復します。また前述のように、宿主の免疫能に異常がなければ以上の過程でHBVは生体から排除され、キャリア化することはありません。しかし、免疫能の不十分な乳幼児、宿主の免疫能が低下した病態、免疫抑制剤の投与を受けている場合などの感染においては、キャリア化へ移行する例が存在します。

治療

 急性B型肝炎は本来、自然治癒する傾向が強い疾患です。治療上最も大切な点は極期(症状が最も強い時期)を過ぎたか否かを見極めることで、劇症化への移行の可能性に留意しながら対処する必要があります。急性B型肝炎の生命予後は、重症化、劇症化しなければきわめて良好です。劇症化した場合には血漿交換、人工肝補助療法、生体肝移植などの治療が必要となります。

 B型慢性肝炎の治療ガイドラインの基本的な方針は以下のように推奨されています。35歳未満はdrug freeを目指してIFN(インターフェロン)を基本とします。35歳以上は、HBVDNAの持続的陰性化を目指して、初回核酸アナログ製剤はエンテカビルとします。一方、ラミブジン及びエンテカビル耐性株に対しては、ラミブジン+アデフォビル併用療法を基本とします。B型肝炎は、HBV遺伝子型により治療効果が異なるため、遺伝子型を測定して治療法を決定することが望ましく、特に、遺伝子型A,Bは、35歳以上でもIFNの効果が高率であることから、第一選択として望ましいのはIFN投与です。IFNの投与期間は、24週間を原則としますが、有効症例(HBVDNA低下、ALT(アラニンアミノ基転移酵素)値正常化)は、48週間投与が望ましいです。

感染経路

水平感染
・思春期以降の宿主の免疫能が十分確立されてからのHBV感染は、多くの場合一過性感染で終わり、その後終生免疫を獲得する
・感染経路の大部分はHBV慢性感染者からの性感染と考えられる
・その他、未滅菌の医療器具、刺青、ピアスの穴開け、カミソリや歯ブラシ、麻薬・覚醒剤使用時の注射器の共用時、HBV持続感染者の血液が器具に残存していると感染の可能性がある

垂直感染(母子感染)
・HBVの持続感染者の多くは、HBV陽性の母親からの出産時に産道出血によりHBVに感染したもの(母児感染)である

予防

 HBV感染の予防は感染経路を遮断することで、輸血用血液および血液製剤のウイルス検査、またはワクチン接種が有効です。B型肝炎ワクチンは我が国では1985年に認可され、翌年からは母子感染防止事業にグロブリン製剤との併用で用いられ、大きな成果をあげています。また、医療従事者などのハイリスクグループにおいても予防接種が感染防止に有効です。WHOは5歳児のHBVキャリア率1%以下を到達目標とし、その手段としてB型肝炎ワクチン接種を勧奨しており、既に、多くの国や地域ですべての新生児、学童にワクチンを接種する「ユニバーサルワクチネーション」が導入されています。ワクチン接種によって抗体を獲得し、HBVキャリア化しやすい小児期をHBV抵抗性に保持することが目的です。ユニバーサルワクチネーションの効果は接種対象となる小児のHBV感染を防ぐだけでなく、小児から大人への感染を防ぐ効果も期待できます。アメリカではユニバーサルワクチネーションを導入した結果、ユニバーサルワクチネーション対象年齢以外の急性B型肝炎数も減少しました。一方、「セレクティブワクチネーション」はHBVキャリア母から生まれる子どもを対象とした感染防止プログラムです。妊婦検査、B型肝炎ワクチン及びHBIGを併用した処置を行います。日本では母子感染防止事業として1986年から実施され、1995年度からは健康保険の給付対象となっています。その結果、HBs抗原陽性率は減少しました。このプログラムを完全に実施できれば、94~97%の高率でキャリア化を防ぐことができますが、胎内感染、妊婦検査の漏れ、処置の煩雑さや不徹底、産婦人科と小児科の連携(新生児は産婦人科で診るがそれ以降は小児科に移るため、予防処置が引き継がれないことがある)などプログラムの不完全実施、さらに家族内の水平感染、など難しい面もあります。また、対象児は感染を免れHBV抵抗性となりますが、その他の児はHBV感受性のままとなります。国別急性B型肝炎報告数の年次推移によると、患者が多かった米国、イタリアはユニバーサルワクチネーション導入後、急性患者数が減少しています。一方、もとから患者数が少なかった国はセレクティブワクチネーションを選択する傾向がありますが、ノルウェーのように、ハイリスク集団からHBV感受性者に性感染を通して流行が広がるケースもあります。

ワクチン

 B型肝炎ワクチンは2016年10月1日から、「2016年4月1日以降に出生した0歳児」を対象に、定期接種(A類疾病)となりました。予防接種のスケジュールは以下の通りです。

定期接種:B型肝炎ワクチン(水平感染予防―2016年4月1日以降に生まれたお子さん)

任意接種:B型肝炎ワクチン(水平感染予防-2016年3月31日以前に生まれたお子さん)

任意接種:B型肝炎ワクチン(母子感染予防)

参考資料として
・国立感染症研究所ホームページ「B型肝炎とは」
http://www.nih.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/321-hepatitis-b-intro.html
・「予防接種に関するQ&A集・B型肝炎」-一般社団法人日本ワクチン産業協会(岡部信彦 川崎市健康安全研究所所長、多屋馨子国立感染症研究所感染症疫学センター第三室(予防接種室)室長 )
監修:大阪府済生会中津病院感染管理室室長 国立感染症研究所感染症疫学センター客員研究員 安井良則氏
更新:2014/11