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国立感染症研究所 感染症疫学センター<br />風疹に関する疫学情報<br />2020年8月26日現在(掲載日:2020年9月1日) 国立感染症研究所 感染症疫学センター
風疹に関する疫学情報
2020年8月26日現在(掲載日:2020年9月1日)
 国立感染症研究所 感染症疫学センターは、2020年9月1日「風疹に関する疫学情報:2020年8月26日現在」を公開しました。その全文を掲載します。

2020年第34週の風疹報告数

 2020年第34週(8月17日~8月23日)の風疹報告数は2人であった。第1~34週の風疹累積患者報告数は87人であり、第33週から2人増加した。(図1、2-1、2-2)。第34週に診断されていても、2020年8月27日以降に遅れて届出のあった報告は含まれないため、直近の報告数の解釈には注意が必要である。

先天性風疹症候群の報告数

 2008年の全数届出開始以降の風疹ならびに先天性風疹症候群の報告数を示す(図3)。2014年の報告以降、先天性風疹症候群の報告はなかったが(http://www.niid.go.jp/niid/ja/rubella-m-111/rubella-top/700-idsc/5072-rubella-crs-20141008.html)、2018~2019年の流行で、2019年第4、17、24、44週、2020年第2週に各1人、合計5人が報告された(報告都道府県:福島県1人、埼玉県1人、東京都2人、大阪府1人、推定感染地域:埼玉県1人、東京都2人、神奈川県1人、大阪府1人、性別:男4人、女1人、母親のワクチン接種歴:有り(回数1回、接種年不明、種類不明)2人、不明3人、母親の妊娠中の風疹罹患歴:有り2人、不明2人、無し1人)。

2013年以降の風疹報告数

 2013年(14,344人)の流行以降、2014年319人、2015年163人、2016年126人、2017年91人と減少傾向であったが(図2-1,2-2,3)、2018年は2,946人、2019年は2,306人が報告され、2020年は第34週時点で87人が報告された(図1,2-1,2-2,3)。

地域別報告数

 地域別には東京都(21人:第26週から増加なし)が最も多く、愛知県(8人:第26週から増加なし)、神奈川県(7人:第17週から増加なし)、兵庫県(7人:第22週から増加なし)、千葉県(6人:第26週から増加なし)、大阪府(6人:第33週から1人増加)から5人以上が報告された(図4、7)。第34週は大阪府と奈良県から各1人報告された(図5)。人口100万人あたりの患者報告数は全国で0.7人であり、三重県が2.2人で最も多く、次いで東京都が1.6人、長野県1.4人、兵庫県1.3人、佐賀県1.2人が続いた(図6)。関東地方からの報告数が40人(46%)で最も多いが、近畿地方から19人(22%)、中部地方から15人(17%)、中国・四国地方から5人(6%)、九州地方から5人(6%)、北海道・東北地方から3人(3%)報告された(図4,7)。

症状(重複あり)

 多い順に発疹84人(97%)、発熱79人(91%)、リンパ節腫脹39人(45%)、結膜充血29人(33%)、咳26人(30%)、鼻汁18人(21%)、関節痛・関節炎15人(17%)、血小板減少性紫斑病0人(0%)、脳炎0人(0%)であった。その他として頭痛が1人、咽頭痛が3人報告された。発熱、発疹、リンパ節腫脹の3主徴すべてがそろって報告されたのは34人(39%)であった。

検査診断の方法(重複あり)

 血清IgM抗体の検出が55人(63%)と最も多かった。次いでPCR法によるウイルス遺伝子の検出が31人(36%)であったが、この内8人については遺伝子型が検査されており、1Eが5人、2Bが1人、型別不能が2人であった。ウイルス遺伝子と血清IgM抗体の両方が検出された者は8人であった。ペア血清による風疹抗体有意上昇は3人(3%)であった。また、麻疹(臨床診断例)として保健所に受理された後、検査診断の結果、風疹(検査診断例)に届出が変更された症例が4人あった。

推定感染源

 推定感染源は、87人中、特に記載がなかった者が56人(64%)と最も多く、不明・不詳・情報なしと記載された者が11人(13%)であった。また、何らかの記載があった男性14人の内、「職場」が6人、この内1人は同じ職場に複数の患者がいると報告された。その他、同じ施設内が2人、同居家族が1人、友人が1人であった。何らかの記載があった女性4人の内、子どもが1人、直接の接触はないものの夫の職場に複数の患者がいると報告された者が1人あった。

職業

 2018年1月から届出票に追加された職業記載欄では、会社員と記載されていた人が20人(23%)と最も多かった。配慮が必要な職種として医師が1人、作業療法士が1人、教職員が2人、消防職員が1人報告された。

年齢・性別

 報告患者の86%(75人)が成人で、男性が女性の2.8倍多い(男性64人、女性23人)(図8,9,10)。男性患者の年齢中央値は41.5歳(1~86歳)で、40代の男性に多く(男性全体の38%)(図8)、第5期定期接種対象の41~58歳は33人(男性全体の52%)であった。女性患者の年齢中央値は31歳(1~67歳)で、20~30代が多かった(女性全体の56%)(図9)。

予防接種歴

 予防接種歴は、なし(16人:18%)あるいは不明(54人:62%)が80%を占める(図8,9)。また、1回接種歴有り(15人:17%)と報告された者のうち、接種年月日、ロット番号ともに報告されたのは3人、接種年月日のみが報告されたのは4人、接種年月のみが報告されたのは1人、接種年月日・ロット番号ともに不明が7人であった。2回接種歴有りと報告された者は2人:2%で、1人は接種年月日のみが報告され、1人は接種年月日・ロット番号ともに不明であった。

推定感染地域

 推定感染地域は国内が57人(66%)と最も多く、国内・国外不明16人(18%)で、国外での感染は13人:(15%:フィリピン8人、タイ3人、フィリピン/モロッコ1人、インドネシア/フィリピン/ロシア1人)、国内または国外が1人(1%:米国/国内)であった(図11)。

風疹HI抗体保有状況

 風疹はワクチンによって予防可能な疾患である。予防接種法に基づいて、約5,000人規模で毎年調査が行われている感染症流行予測調査の2019年度の結果を見ると、成人男性は40代前半(HI抗体価1:8以上:80%)、40代後半(同:78%)、50代前半(同:76%),50代後半(同:84%)で抗体保有率が特に低い(図12-1)。2019~2020年の風疹患者報告の中心もこの年齢層の成人男性であることから、この集団に対する対策が必要である。一方、妊娠出産年齢の女性の抗体保有率(HI抗体価1:8以上)は概ね95%以上で高く維持されていた(図12-2)。妊婦健診で低いと指摘される抗体価(HI抗体価<1:8,1:8,1:16)の割合は20代前半で27%、20代後半で19%、30代前半で19%、30代後半で10%、40代前半で17%、40代後半で17%存在することから(図15-2)、特に妊娠20週頃までの妊婦の風疹ウイルス感染には注意が必要である。

第5期定期接種

 風疹第5期定期接種対象の昭和37(1962)年4月2日~昭和54(1979)年4月1日生まれの男性(図13)は、積極的に風疹抗体検査を受け、検査結果に応じて予防接種を受けることが勧奨されている。

 対象者に対しては、市町村からクーポン券が送付されるが、2019年度に続き、2020年度も各自治体からクーポン券が発送された(https://www.mhlw.go.jp/content/10601000/000645412.pdf)。発送された対象者は自治体によって異なる。厚生労働省によると、2019年4月1日時点の第5期定期接種対象(昭和37(1962)年4月2日~昭和54(1979)年4月1日生まれ)の男性人口は全国で15,374,162人であった。2020年6月までに抗体検査を受けた人が2,012,788人(クーポン券使用1,946,481人、自治体66,307人)で対象男性人口の13.1%、予防接種を受けた人は412,808人(クーポン券使用399,711人、自治体13,097人)で対象男性人口の2.7%であった。各都道府県別のクーポン券使用者数を下記に示す(図14,図15)。クーポン券使用割合が高かった上位5自治体は富山県、長野県、秋田県、岩手県、山口県であった(図16)。なお、クーポン券が未送付であっても、市町村に希望すれば、クーポン券を発行し抗体検査を受検できる。風疹抗体検査・風疹第5期定期接種受託医療機関については厚生労働省のホームページ(「風しんの追加的対策について」)を参照のこと。風疹はワクチンで予防可能な感染症である。

<※本文に添付の図は、出典先のpdfをご覧ください>
▼出典 国立感染症研究所 感染症疫学センター 「風疹に関する疫学情報:2020年8月26日現在」2020年9月1日掲載