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 4月に注意してほしい感染症

【No1】新型コロナウイルス感染症(COVID-19)…新型コロナウイルス感染症の発症者数は、日本国内においても増え続けています。現状のままでは、特定の地域で患者数のオーバーシュート(いわゆる爆発的増加)が起こり、医療体制が崩壊してしまうことも十分に考えられます。新型コロナウイルス感染症は、たとえ感染しても多くの人は無症状あるいは軽い症状で終わると言われていますが、一方で、肺炎を起こしさらに重症化して人工呼吸管理をしなければ生命にかかわる人も、高齢者や基礎疾患を持った人たちを中心に少なくありません。いま大変重要なことは、自覚症状なくあるいは軽い症状の人がたくさんの人と接触して、感染させてしまうことを防ぐことです。そのためには、不要不急の外出を避け、必要以上にたくさんの人と接触することは避けてください。

【No2】A群溶血性レンサ球菌咽頭炎(溶連菌感染症)…学校等の休校の影響で、患者報告数は減少が続いています。例年は新学期以降、夏に流行のピークを迎える感染症ですので、4~5月と注意が必要です。

【No3】咽頭結膜熱…別名プール熱とも呼ばれ、学校等の休校の影響により、患者報告数は減少が見られていますが、例年4月は、患者数が増加してくる時期です。アデノウイルスによって感染する感染症で、その感染力は極めて強いです。患者数の増加する4~5月は、ご注意ください。

【No4】ヒトメタニューモウイルス感染症…ヒトメタニューモウイルス感染症の流行時期は、例年3~6月とされています。大部分は症状が出ないか、いわゆる「かぜ」の症状ですが、乳幼児、高齢者などでは、酸素投与が必要な肺炎となることも珍しくありません。RSウイルスと同様に感染力が強く、感染経路は飛沫感染と接触感染であるといわれており、予防には手洗いなどの手指衛生が重要です。

感染症ごとに、更に詳しくみていきましょう。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)

 世界中で患者数が増加しつつある新型コロナウイルス感染症は、2020年3月下旬現在、中国以外 特にイタリア・スペイン・フランス・アメリカなどの欧米地域で患者数の急増が見られています。日本では今のところ、欧米諸国のような患者数が急増している地域と比べて、患者数・死亡者数の増加は比較的緩やかですが、多くの都道府県で患者の発生が見られており、一部の地域ではクラスター(集団発生)が認められています。

 ウイルスの感染経路は、飛沫感染と接触感染です。最も重要な対策は、咳エチケットと手洗い・アルコール消毒など手指衛生を徹底することです。咳エチケットは、個人が咳・くしゃみをする際に、マスクやティッシュ・ハンカチ、袖を使って、口や鼻をおさえることです。

 また、専門家会議によると、これまで集団感染が確認された場所に共通するのは、

 (1)換気の悪い密閉空間

 (2)多くの人が密集していた

 (3)近距離(互いに手を伸ばしたら届く距離)での会話や発声が行われた

 という3つの条件が同時に重なった場所です。こうした場所ではより多くの人が感染していたと考えられます。これらの3つの条件が同時に揃う場所や場面をできるだけ予測し、避ける行動をとりましょう。また、これら3つの条件がすべて重ならないまでも、1つまたは2つの条件があれば、なにかのきっかけで3つの条件が揃うことがあります。3つの条件ができるだけ同時に重ならないようにすることが対策となります。

 新型コロナウイルス感染症に感染し発病した場合、大半の例では軽症または中等症までで治っていくと言われています。一方、高齢の方や、糖尿病や呼吸器疾患などの基礎疾患を持った方々は、重症化する場合があると言われています。これからは、重症化する可能性のある方々ができる限り感染しないように守り、万が一感染・発病した場合は、すぐに適切な医療が受けられるようにすることが重要となります。日本国内における新型コロナウイルス感染症の流行を抑制し、たとえ流行が抑えられなくなっても、流行の開始・ピークを少しでも遅らせることによって、医療機関に患者が殺到して地域の医療体制が崩壊したり、重症者に十分な医療が行き届かなくなることによって亡くなってしまう人が増加することを防ぐためです。過度に心配しパニックになることなく、これらの情報を正しく理解し、自身の感染予防と万が一の際の適切な行動につなげることが、いま最も大切です。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)

A群溶血性レンサ球菌咽頭炎(溶連菌感染症)

 溶連菌感染症の症状が疑われる場合は、速やかにかかりつけ医を受診しましょう。溶連菌感染症と診断され、抗菌薬が処方された場合は、医師の指示に従うことが重要です。途中で抗菌薬をやめた場合、病気の再燃や糸球体腎炎などの合併症を来すことが知られています。

 溶連菌感染症は、学童期の小児に最も多く、3歳以下や成人では典型的な症状が現れることは少ないといわれています。症状としては2~5日の潜伏期間を経て、38度以上の発熱と全身倦怠感、のどの痛みによって発症し、しばしばおう吐を伴います。

 また、舌にイチゴのようなぶつぶつができる「イチゴ舌」の症状が現れます。まれに重症化し、全身に赤い発しんが広がる「猩紅熱(しょうこうねつ)」になることがあります。また、十分な抗菌薬の投与による治療をおこなわないと、リウマチ熱や急性糸球体腎炎などを引き起こすことが知られています。

 主な感染経路は、発症者もしくは保菌者(特に鼻咽頭部に保菌している者)由来の飛沫による飛沫感染と濃厚な直接接触による接触感染です。物品を介した間接接触による感染は稀とされていますが、患者もしくは保菌者由来の口腔もしくは鼻腔由来の体液が明らかに付着している物品では注意が必要です。発症者に対しては、適切な抗菌薬による治療が開始されてから48時間が経過するまでは学校、幼稚園、保育園での集団生活は許可すべきではないとされています。

A群溶血性レンサ球菌咽頭炎(溶連菌感染症)

咽頭結膜熱(プール熱)

 咽頭結膜熱は、別名プール熱とも呼ばれています。例年、6~7月と12月を中心に流行のピークを迎えます。発熱、咽頭炎(咽頭発赤、咽頭痛)、結膜炎(結膜充血、眼痛、流涙、眼脂)の3つが主な症状です。通常感染してからの潜伏期間は5~7日。症状がある期間は3~5日といわれています。咽頭結膜熱の感染経路は、主に接触感染です。また、飛沫感染もあります。

 原因ウイルスは、アデノウイルスで、感染力は強力です。直接接触だけではなくタオル、ドアの取っ手、階段やエスカレーターの手すり、エレベーターのボタン等の不特定多数の人が触る物品を介した間接接触でも感染が広がります。

 アデノウイルスは、環境中で数日間活性を保っているため、施設やご家庭などで患者が発生している場合は、皆がよく手を触れるものを中心に消毒を行うことも重要な感染対策となります。

 なお、プール熱という名前の方が一般的に知られるようになり、プールに入ったら感染してしまうなどというイメージを持っている方もいらっしゃいますが、残留塩素濃度の基準を満たしているプールの水を介して感染することはほとんどありません。

咽頭結膜熱

ヒトメタニューモウイルス感染症

 ヒトメタニューモウイルス感染症の症状は、すべての年齢層で鼻炎、咽頭炎、副鼻腔炎などの上気道炎から、気管支炎、細気管支炎、肺炎などの下気道炎まで引き起こしますが、大部分は症状が出ないか上気道炎、いわゆる「かぜ」の症状です。乳幼児、高齢者などでは、呼吸困難になることもあり、酸素投与が必要な肺炎となることも珍しくありません。重症化する場合は、高熱が持続し、息がゼイゼイと呼吸が苦しそうになる呼吸器症状が出ます。潜伏期間は4~6日といわれています。

 流行時期は例年3~6月とされていて、母体からの移行抗体が消失していく生後6か月頃の乳児より感染が始まり、2歳までに約50%、10歳までにはほぼ全員が感染すると考えられています。小児のみでなく成人(特に高齢者)においても重要なウイルスです。1度の感染では十分な免疫を獲得できず、何度も再感染を繰り返していきます。

 ヒトメタニューモウイルスは、RSウイルスと同様に感染力が強く、感染経路は飛沫感染と接触感染であるといわれています。ウイルスの量は発熱後1~4日で多く、感染者からのウイルスの排泄は1~2週間持続するといわれています。一方、軽症例では軽い咳や鼻汁程度の症状のため,保育所に通常どおり通っている場合が多く、 幼稚園、保育園など乳幼児の集団生活施設等で効果的な感染対策を行うことは困難であると言わざるを得ません。

 ヒトメタニューモウイルス感染症の予防には、飛沫感染対策としての咳エチケット、接触感染対策の基本である手指衛生が重要です。ヒトメタニューモウイルスの抗ウイルス薬はなく、ワクチンも存在しないため、治療はすべて急性期の症状の重症度に応じた対症療法が基本となります。特に、脱水、呼吸困難、細菌の2次感染に注意が必要です。

ヒトメタニューモウイルス感染症

監修:大阪府済生会中津病院感染管理室室長 国立感染症研究所感染症疫学センター客員研究員 安井良則氏