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11月に注意してほしい感染症

【No1】インフルエンザ…2019年9月に沖縄県でインフルエンザ警報が発令され、他の複数の地域においても、流行宣言が出されました。その後、インフルエンザの患者発生はやや落ち着いてきているものの、11月は例年全国的に患者数が増加し、場合によっては全国的な流行開始となる場合があります。2019年は流行開始が早まる可能性がありますので、今後の患者数の推移には注意が必要です。小さなお子さんや高齢の方は、早期のワクチン接種も検討しましょう。

【No2】ノロウイルス感染症…例年11月は、12月の流行のピークに向かって患者発生数が大きく増加する時期です。ノロウイルスの本格的な流行に備えて、手指衛生の徹底など感染対策を心掛けてください。

【No3】溶連菌感染症(A群溶血性レンサ球菌咽頭炎)…12月の流行のピークに向かって患者数が増加していくことが予想されます。特に、幼稚園・保育園・小学校など、乳幼児・小児の集団生活施設においては、溶連菌感染症の集団発生にご注意ください。

【No4】咽頭結膜熱…夏だけではなく、12月を中心とした冬にも流行のピークを迎える感染症です。2019年は冬の流行が過去10年間で最も大きかった2017年に次ぐ患者報告数の水準を示しています。今後の冬の流行に向けて患者数が増加していくものと予想されますので、注意が必要です。

 感染症ごとに、更に詳しくみていきましょう。

インフルエンザ

 1~4日間の潜伏期間を経て、突然に発熱(38℃以上の高熱)、頭痛、全身倦怠感、筋肉痛・関節痛などが出現し、鼻水・咳などの呼吸器症状がこれに続きます。通常は1週間前後の経過で軽快しますが、いわゆる「かぜ」と比べて全身症状が強いのが特徴です。主な感染経路は、くしゃみ、咳、会話等で口から発する飛沫による飛沫感染です。他に接触感染もあるといわれています。

 インフルエンザの予防には、予防接種を受けることが有効です。予防接種を受けることで、発症率、重症化率の低減につながると言われています。インフルエンザの感染対策とてしては、飛沫感染対策として、咳エチケット。接触感染対策としての手洗いの徹底が重要であると考えられますが、たとえインフルエンザウイルスに感染しても、全く無症状の不顕性感染例や臨床的にはインフルエンザとは診断し難い軽症例が存在します。これらのことから、特にヒト―ヒト間の距離が短く、濃厚な接触機会の多い学校、幼稚園、保育園等の小児の集団生活施設では、インフルエンザの集団発生をコントロールすることは、困難であると思われます。

インフルエンザ

ノロウイルス感染症

 例年11月に急激に増加し、12月にピークを迎えます。11月はノロウイルス感染症に注意が必要です。

 主な症状は、はき気、おう吐及び下痢です。通常は便に血液は混じりません。あまり高い熱とならないことが多いです。小児ではおう吐が多く、おう吐・下痢は一日数回からひどい時には10回以上の時もあります。

 感染してから発病するまでの「潜伏期間(せんぷくきかん)」は1~2日と他の感染症と比較して短い方であり、症状の持続する期間も数時間~数日(平均1~2日)と比較的短期間です。
 
 既に他の病気があったり、大きく体力が低下している等がなければ、重症化して長い間入院しなければならないことはまずありませんが、ごくまれにおう吐した物を喉に詰めて窒息(ちっそく)することがありますので注意してください。

ノロウイルス感染症

A群溶血性レンサ球菌咽頭炎(溶連菌感染症)

 12月のピークに向かって患者報告数が増加していくことが予想されます。今後とも溶連菌感染症の患者数の推移には注意が必要です。

 溶連菌感染症の症状が疑われる場合は、速やかにかかりつけ医を受診しましょう。溶連菌感染症と診断され、抗菌薬が処方された場合は、医師の指示に従うことが重要です。途中で抗菌薬をやめた場合、病気の再燃や糸球体腎炎などの合併症を来すことが知られています。

 溶連菌感染症は、学童期の小児に最も多く、3歳以下や成人では典型的な症状が現れることは少ないといわれています。症状としては2~5日の潜伏期間を経て、38度以上の発熱と全身倦怠感、のどの痛みによって発症し、しばしばおう吐を伴います。

 また、舌にイチゴのようなぶつぶつができる「イチゴ舌」の症状が現れます。まれに重症化し、全身に赤い発しんが広がる「猩紅熱(しょうこうねつ)」になることがあります。また、十分な抗菌薬の投与による治療をおこなわないと、リウマチ熱や急性糸球体腎炎などを引き起こすことが知られています。

 主な感染経路は、発症者もしくは保菌者(特に鼻咽頭部に保菌している者)由来の飛沫による飛沫感染と濃厚な直接接触による接触感染です。物品を介した間接接触による感染は稀とされていますが、患者もしくは保菌者由来の口腔もしくは鼻腔由来の体液が明らかに付着している物品では注意が必要です。発症者に対しては、適切な抗菌薬による治療が開始されてから48時間が経過するまでは学校、幼稚園、保育園での集団生活は許可すべきではないとされています。

A群溶血性レンサ球菌咽頭炎(溶連菌感染症

咽頭結膜熱(プール熱)

 咽頭結膜熱は、別名プール熱とも呼ばれています。例年、6~7月と12月を中心に流行のピークを迎えます。発熱、咽頭炎(咽頭発赤、咽頭痛)、結膜炎(結膜充血、眼痛、流涙、眼脂)の3つが主な症状です。通常感染してからの潜伏期間は5~7日。症状がある期間は3~5日といわれています。咽頭結膜熱の感染経路は、主に接触感染です。また、飛沫感染もあります。

 原因ウイルスは、アデノウイルスで、感染力は強力です。直接接触だけではなくタオル、ドアの取っ手、階段やエスカレーターの手すり、エレベーターのボタン等の不特定多数の人が触る物品を介した間接接触でも感染が広がります。

 アデノウイルスは、環境中で数日間活性を保っているため、施設やご家庭などで患者が発生している場合は、皆がよく手を触れるものを中心に消毒を行うことも重要な感染対策となります。

 なお、プール熱という名前の方が一般的に知られるようになり、プールに入ったら感染してしまうなどというイメージを持っている方もいらっしゃいますが、残留塩素濃度の基準を満たしているプールの水を介して感染することはほとんどありません。

咽頭結膜熱

監修:大阪府済生会中津病院感染管理室室長 国立感染症研究所感染症疫学センター客員研究員 安井良則氏