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国立感染症研究所 感染症疫学センター<br />風疹急増に関する緊急情報 2019年5月9日現在(掲載日:2019年5月14日) 国立感染症研究所 感染症疫学センター
風疹急増に関する緊急情報 2019年5月9日現在(掲載日:2019年5月14日)
 国立感染症研究所 感染症疫学センターは、2019年5月14日「風疹急増に関する緊急情報:2019年5月9日現在」を公開しました。その全文を掲載します。

 風疹流行に関する緊急情報:2019年5月9日現在
 国立感染症研究所感染症疫学センター

 2019年第18週に33人が風疹と診断され報告された。遅れ報告も含めると、第1~18週の風疹累積患者報告数は1,434人となり、第17週の1,377人から57人増加した(図1)。なお、第18週(4月29日~5月5日)に診断されていても、2019年5月10日以降に遅れて届出のあった報告は含まれないため、直近の報告数の解釈には注意が必要である。

 2008年の全数届出開始以降の風疹ならびに先天性風疹症候群の報告数を示す(図3)。

 2014年の報告以降、先天性風疹症候群の報告はなかったが(http://www.niid.go.jp/niid/ja/rubella-m-111/rubella-top/700-idsc/5072-rubella-crs-20141008.html)、2019年第4週・第17週に各1人、合計2人が報告された(第4週の報告都道府県:埼玉県、推定感染地域:埼玉県、性別:男、母親のワクチン接種歴:有り(回数不明、接種年不明、種類不明)、母親の妊娠中の風疹罹患歴:不明。第17週の報告都道府県:東京都、推定感染地域:東京都、性別:男、母親のワクチン接種歴:不明、母親の妊娠中の風疹罹患歴:不明)。

 「風しんに関する特定感染症予防指針(厚生労働省告示第百二十二号:平成26年3月28日)」では、「早期に先天性風疹症候群の発生をなくすとともに、令和2年度までに風疹の排除を達成すること」を目標としている。先天性風疹症候群の発生を防ぐためには、妊婦への感染を防止することが重要であり、妊娠出産年齢の女性及び妊婦の周囲の者のうち感受性者を減少させる必要がある。また、現在の風疹の感染拡大を防止するためには、30~50代の男性に蓄積した感受性者を早急に減少させる必要がある。このため厚生労働省は2019年~2021年度末の約3年間にかけて、これまで風疹の定期接種を受ける機会がなかった昭和37(1962)年4月2日~昭和54(1979)年4月1日生まれの男性(現在40歳1か月~57歳1か月)を対象に、風疹の抗体検査を前置した上で、定期接種(A類)を行うことを発表した。

 2013年(14,344人)の流行以降、2014年319人、2015年163人、2016年126人、2017年91人と減少傾向であったが(図2-1,2-2,3)、2018年は2,917人が報告され、2019年は第12週時点で1,000人を超え、第18週までに1,434人が報告された(図1,2-2,2-2,3)。

 地域別には東京都(474人:第17週から26人増加)、神奈川県(168人:第17週から増加なし)、千葉県(134人:第17週から3人増加)、大阪府(114人:第17週から2人増加)、埼玉県(103人:第17週から5人増加)、福岡県(78人:第17週から1人増加)、兵庫県(38人:第15週から増加なし)、愛知県(35人:第17週から増加なし)、広島県(26人:第16週から増加なし)、北海道(25人:第16週から増加なし)、佐賀県(20人:第17週から増加なし)からの報告が20人以上と多く(図4、7)、第18週は島根県(9人)、岐阜県、三重県、沖縄県(各2人)からも複数報告された(図5)。人口100万人あたりの患者報告数は全国で11.3人であり、東京都が35.1人で最も多く、次いで佐賀県24.0人、島根県21.6人、千葉県21.5人、神奈川県18.4人、福井県16.5人、福岡県15.3人、埼玉県14.2人、大阪府12.9人、山口県11.4人が続いた(図6)。関東地方からの報告数が901人(63%)で最も多いが、近畿地方から208人(15%)、九州地方から137人(10%)、中部地方から84人(6%)、中国・四国地方から65人(5%)、北海道・東北地方から39人(3%)が報告された。報告がないのは青森県、徳島県、高知県、宮崎県の4県となった(図4,7)。

 報告された風疹患者の症状(重複あり)は、多い順に発疹1,414人(99%)、発熱1,266人(88%)、リンパ節腫脹809人(56%)、結膜充血689人(48%)、咳358人(25%)、関節痛・関節炎329人(23%)、鼻汁328人(23%)、血小板減少性紫斑病4人(0.3%)、脳炎1人(0.1%)であった。その他として、咽頭痛・咽頭炎・咽頭発赤・のどの違和感29人、頭痛・頭重感27人、倦怠感13人、硬口蓋点状出血/発赤/斑点・口蓋粘膜・頬粘膜点状出血8人、下痢・水様便7人、悪寒6人、眼脂6人、筋肉痛4人、肝炎・肝機能障害3人、喀痰3人、口内炎3人、血小板減少2人、白血球減少2人、嘔気2人、胸部痛2人、皮膚疼痛2人、扁桃腫大・扁桃腺炎2人、髄膜炎1人、腹痛1人、肺炎1人、耳痛1人、耳後部痛1人、下顎疼痛1人、目の奥・肩・頸部・腰部痛1人、体熱感1人、耳下腺腫脹1人、痒み1人、体の痛み1人、口腔内白苔1人、下肢痛・腰痛1人、指のしびれ1人、食欲不振1人(重複有)等が報告された。発熱、発疹、リンパ節腫脹の3主徴すべてがそろって報告されたのは712人(50%)であった。また、発熱初発日と発疹初発日が報告された1,220人のうち、発熱と発疹が同日に出現した人が489人(40%)、発熱より発疹が先に出現した人が119人(10%)、発疹より発熱が先に出現した人が612人(50%)であった。

 検査診断の方法(重複あり)は、ウイルス分離14人(1%)、PCR法によるウイルス遺伝子の検出795人(55%)、この内176人については遺伝子型が検査されており、1Eが163人、2Bが1人、不明が6人、型別不能3人、検査中が3人であった。血清IgM抗体の検出は746人(52%)で、この内、ウイルス遺伝子と血清IgM抗体の両方が検出された者は218人(29%)であった。ペア血清による風疹抗体陽転または有意上昇は32人(2%)であった。

 推定感染源は、1,434人中、特に記載がなかった者が1,103人(77%)と最も多く、不明・不詳・情報なしと記載された者が111人(8%)であった。また、何らかの記載があった男性165人の内、職場/会社の同僚/上司・職場/会社で流行等、「職場」と記載があった者が91人で最多であった。その他、家族21人(父5人、兄3人、妻3人、弟2人、姉2人、同居家族2人、母1人、妹1人、姉妹1人、従兄弟1人)、旅行・出張11人、地域の祭り6人、友人・知人5人、通勤途中3人、飲食店3人、学校3人、成人式2人、結婚式2人、ライブ2人、医療機関1人、空港1人、スポーツ観戦1人、その他13人の記4載があった。何らかの記載があった女性55人の内、家族(夫6人、子6人、兄4人、父3人、妹3人、姉2人、同居家族2人、母1人、弟1人、甥1人、親戚1人)と記載があった者が30人で最多であった。職場/会社の同僚/上司・職場/会社で流行等、「職場」と記載があった者が13人、友人・知人4人、通勤途中1人、学校1人、ライブ1人、成人式1人、その他4人の記載があった。

 2018年1月から届出票に追加された職業記載欄では、会社員と記載されていた人が518人(36%)と最も多いが、特に配慮が必要な職種として医療関係者が18人(看護師5人、薬局勤務3人、医療事務3人、医師1人、歯科医師1人、検査技師1人、看護助手1人、リハビリ職員1人、歯科医院事務1人、医療従事者1人)、教職員が13人、保育士が11人、消防士・消防署員が7人報告された。報告患者の94%(1,354人)が成人で、男性が女性の3.9倍多い(男性1,143人、女性291人)(図8,9,10)。男性患者の年齢中央値は40歳(0~75歳)で、特に30~40代の男性に多く(男性全体の60%)(図8)、女性患者の年齢中央値は30歳(0~69歳)で、特に妊娠出産年齢である20~30代に多い(女性全体の63%)(図9)。

予防接種歴は、なし(303人:21%)あるいは不明(1,008人:70%)が91%を占める(図8,9)。

 また、接種歴有り(123人:9%)と報告された者のうち、接種年月日、ロット番号ともに報告されたのは20人、接種年月日のみが報告されたのは18人、接種年月のみが報告されたのは1人、接種年のみが報告されたのは3人であった。接種年月日・ロット番号ともに不明が81人であった。

推定感染地域は国内が1,131人(79%)と最も多く、国内・国外不明276人(19%)、国外21人(1%)、国内または国外6人(0.4%)であり、国外での感染は少ない(図11)。

 風疹はワクチンによって予防可能な疾患である。今回報告を受けている風疹患者の中心は、過去にワクチンを受けておらず、風疹ウイルスに感染したことがない、抗体を保有していない集団である。予防接種法に基づいて、約5,000人規模で毎年調査が行われている感染症流行予測調査の2017年度の結果を見ると、成人男性は30代後半(抗体保有率(HI抗体価1:8以上):84%)、40代(同:77~82%)、50代前半(同:76%)で抗体保有率が特に低い(図12,13,14-1)。2019年の風疹患者報告の中心もこの年齢層の成人男性であることから(図15)、この集団に対する対策が必要である。一方、妊娠出産年齢の女性の抗体保有率(HI抗体価1:8以上)は概ね95%以上で高く維持されていたが、妊婦健診で低いと指摘される抗体価(HI抗体価<1:8,1:8,1:16)の割合は20代前半で20%、20代後半で24%、30代前半で16%、30代後半で12%、40代前半で16%、40代後半で19%存在することから(図14-2)、特に妊娠20週頃までの妊婦の風疹ウイルス感染には注意が必要である。

 日本において風疹ワクチンは、昭和52(1977)年8月~平成7(1995)年3月までは中学生の女子のみが定期接種の対象であった(図16)。平成元(1989)年4月~平成5(1993)年4月までは、麻疹ワクチンの定期接種の際に、麻疹おたふくかぜ風疹混合(MMR)ワクチンを選択しても良いことになった。当時の定期接種対象年齢は生後12か月以上72か月未満の男女であった。平成7(1995)年4月からは生後12か月以上90か月未満の男女(標準は生後12か月~36か月以下)に変更になり、経過措置として12歳以上~16歳未満の中学生男女についても定期接種の対象とされた。平成13(2001)年11月7日~平成15(2003)年9月30日までの期間に限って、昭和54(1979)年4月2日~昭和62(1987)年10月1日生まれの男女はいつでも定期接種(経過措置分)として受けられる制度に変更になったが、接種率上昇には繋がらなかった。平成18(2006)年度から麻疹風疹混合(MR)ワクチンが定期接種に導入され、1歳と小学校入学前1年間の幼児(6歳になる年度)の2回接種となり、平成20(2008)~平成24(2012)年度の時限措置として、中学1年生(13歳になる年度)および高校3年生相当年齢(18歳になる年度)の者を対象に、2回目の定期接種が原則MRワクチンで行われた。接種制度はあっても受けていない可能性がある。自分自身が受けているかどうかは接種の記録(母子健康手帳等)あるいは抗体検査で確認する必要がある。

 これらのワクチン政策の結果、近年の風疹患者の中心は小児から成人へと変化している。妊娠20週頃までの女性が風疹ウイルスに感染すると、胎児にも風疹ウイルスが感染して、眼、耳、心臓に障害をもつ先天性風疹症候群の児が生まれる可能性がある。妊娠中は風疹含有ワクチンの接種は受けられず、受けた後は2か月間妊娠を避ける必要があることから、女性は妊娠前に2回の風疹含有ワクチンを受けておくこと、妊婦の周囲の者に対するワクチン接種を行うことが重要である。

 2013年の流行時には64人の血小板減少性紫斑病と11人の脳炎合併が報告されたが、2018年は13人の血小板減少性紫斑病と1人の脳炎合併が、2019年は第18週までに4人の血小板減少性紫斑病と1人の脳炎が報告されている。30~50代の男性で風疹に罹ったことがなく、風疹含有ワクチンを受けていないか、あるいは接種歴が不明の場合は、早めにMRワクチンを受けておくことが奨められる。

 風疹の抗体検査、風疹含有ワクチン接種に対する費用助成をしている自治体が増加している。居住地の自治体のホームページ等を確認して、対象者に該当する場合は、風疹の抗体検査、風疹含有ワクチンの接種を積極的に受ける事が望ましい。

 風疹第5期定期接種対象の昭和37(1962)年4月2日~昭和54(1979)年4月1日生まれの男性は、積極的に風疹抗体検査を受け、必要に応じて予防接種を受けることが勧奨されている。対象者に対しては、市町村から受診券が送付されるが、まず1年目(2019年度)は、昭和47(1972)年4月2日~昭和54(1979)年4月1日生まれの男性に受診券が送付される。なお、受診券が未送付であっても、市町村に希望すれば、受診券を発行し抗体検査を受検できる。風疹抗体検査・風疹第5期定期接種受託医療機関については厚生労働省のホームページ(「風しんの追加的対策について)」を参照のこと。風疹はワクチンで予防可能な感染症である。

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▼出典 国立感染症研究所 感染症疫学センター 「風疹急増に関する緊急情報:2019年5月9日現在」2019年5月14日掲載