経験談のご協力をお願いします。
※皆様からご投稿いただきました感染症経験談は、研究活動の研究報告として提出予定です。
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概要

 風しんは、発熱、発疹、リンパ節腫脹を特徴とするウイルス性発疹症です。症状は、症状が現れない不顕性感染から、重篤な合併症併発まで幅広く、臨床症状のみで風しんと診断することは困難な疾患です。風しんに感受性のある妊娠20週頃までの妊婦が風疹ウイルスに感染すると、出生児が先天性風疹症候群を発症する可能性があります。

 男女ともにワクチンを受けて、まず風しんの流行を抑制し、女性は感染予防に必要な免疫を妊娠前に獲得しておくことが重要です。

病原体

 風疹ウイルスはTogavirus科Rubivirus属に属する直径60~70nmの(+)鎖の一本鎖RNAウイルスです。エンベロープを有しています。血清学的には亜型のない単一のウイルスで、E1蛋白質の遺伝子解析によって13の遺伝子型に分類されています。

症状

 感染から14~21日(平均16~18 日)の潜伏期間の後、発熱、発疹、リンパ節腫脹(ことに耳介後部、後頭部、頚部)が出現します。発熱は風疹患者の約半数にみられる程度です。また、不顕性感染が15(~30)%程度存在します。3徴候のいずれかを欠くものについての臨床診断は困難であることに加え、溶血性連鎖球菌による発疹、伝染性紅斑、修飾麻疹、エンテロウイルス感染症、伝染性単核球症など似た症状を示す発熱発疹性疾患や薬疹との鑑別が必要となるため、確定診断のためには検査室診断が必要です。

 多くの場合、発疹は淡紅色で、小さく、皮膚面よりやや隆起しており、全身に広がるには、さらに数日間を要することがあります。通常色素沈着や落屑はみられませんが、発疹が強度の場合にはこれらを伴うこともあります。リンパ節は発疹の出現する数日前より腫れはじめ、3~6週間位持続します。カタル症状、眼球結膜の充血を伴うが、これも麻疹に比して軽症です。ウイルスの排泄期間は発疹出現の前後約1週間とされていますが、解熱すると排泄されるウイルス量は激減し、急速に感染力は消失します。

 基本的には予後良好な疾患ですが、高熱が持続したり、血小板減少性紫斑病(1/3,000~5,000人)、急性脳炎(1/4,000~6,000人)などの合併症により、入院が必要になることがあります。成人では、手指のこわばりや痛みを訴えることも多く、関節炎を伴う(5~30%)こともありますが、そのほとんどは一過性です。

治療・予防

 発熱、関節炎などに対しては解熱鎮痛剤が用いられますが、特異的な治療法はなく、症状を和らげる対症療法のみです。

 弱毒生ワクチンが実用化され、広く使われています。先進国ではMMR(麻しん・おたふくかぜ・風しん)混合ワクチンとして使用している国がほとんどですが、日本国内では、1989年4月~1993年4月までの4年間、麻しんの定期接種(生後12か月~72か月未満)の際に、選択しても良いという形で導入されましたが、おたふくかぜワクチン株による無菌性髄膜炎の多発により中止となり、それ以降使用されていません。一方、まだ風しんワクチンが小児の定期接種に導入されていない国も多く、これらの国々では大規模な風しんの流行と先天性風しん症候群の多発が認められています。

 日本国内では、1977年8月~1995年3月までは中学生の女子のみが風しんワクチン定期接種の対象でした。1994年の予防接種法改正により、1995年4月からその対象は生後12か月以上~90か月未満の男女(標準は生後12か月~36か月以下)に変更になりました。また、経過措置として、12歳以上~16歳未満の中学生男女についても接種の対象とされました。学校での集団接種は保護者同伴で医療機関を受診して受ける個別接種に変更となり、幼児の接種率は比較的高かったのですが、中学生での接種率は激減しました。これを受けて、2001年11月7日~2003年9月30日までの期間に限って、1979年4月2日~1987年10月1日生まれの男女はいつでも定期接種(経過措置分)として受けられる制度に変更になりましたが、対象者にこの情報は十分に伝わらず、接種率上昇には繋がりませんでした。

 2006年度からMR(麻しん・風しん)混合ワクチンが定期接種に導入され、1歳と小学校入学前1年間の幼児(6歳になる年度)の2回接種となりました。また、2007年に10~20代を中心とした麻しんの全国流行を受けて、2008年度~2012年度の時限措置として、中学1年生(13歳になる年度)あるいは高校3年生相当年齢(18歳になる年度)の人を対象に、2回目の定期接種が原則MRワクチンで行われることとなった。2回目の接種機会は、生年月日により、小学校入学前1年間(第2期)、中学1年生(第3期)、高校3年生相当年齢(第4期)の違いがあるが、第4期の接種率は特に大都市圏で低いものでした。

感染症法における取り扱い (2018年1月1日現在)

 「風しん」および「先天性風しん症候群」はいずれも全数報告対象(5類感染症)です。「風しん」については、診断した医師は直ちに最寄りの保健所に届け出なければなりません。

学校保健安全法における取り扱い (2013年5月1日現在)

 風しんは第2種の学校感染症に定められており、発しんが消失するまで出席停止とされている。ただし、病状により学校医その他の医師において感染の恐れがないと認めたときは、この限りでない。 また、以下の場合も出席停止期間となる。

●患者のある家に居住する者又はかかっている疑いがある者については、予防処置の施行その他の事情により学校医その他の医師において感染のおそれがないと認めるまで。
●発生した地域から通学する者については、その発生状況により必要と認めたとき、学校医の意見を聞いて適当と認める期間
●流行地を旅行した者については、その状況により必要と認めたとき、学校医の意見を聞いて適当と認める期間

先天性風しん症候群(CRS)について


概要

 免疫のない女性が妊娠初期に風疹に罹患すると、風疹ウイルスが胎児に感染して、出生児に先天性風疹症候群 (CRS)と総称される障がいを引き起こすことがあります。

疫学

 風疹の流行年とCRSの発生の多い年度は完全に一致しています。また、この流行年に一致して、かつては風疹感染を危惧した人工流産例も多く見られました。風疹は、主に春に流行し、従って妊娠中に感染した胎児のほとんどは秋から冬に出生しています。流行期における年毎の10 万出生当たりのCRSの発生頻度は、米国で0.9 ~1.6 、英国で6.4 ~14.4 、日本で1.8 ~7.7 であり、国による差は殆ど見られません。母親が顕性感染した妊娠月別のCRS の発生頻度は、妊娠1か月で50%以上、2か月で35%、3か月で18%、4か月で8%程度です。成人でも15%程度不顕性感染があるので、母親が無症状であってもCRS は発生し得ます。

症状

 CRS の3 大症状は先天性心疾患、難聴、白内障である。このうち、先天性心疾患と白内障は妊娠初期3か月以内の母親の感染で発生するが、難聴は初期3か月のみならず、次の3か月の感染でも出現します。しかも、高度難聴であることが多く、3大症状以外には、網膜症、肝脾腫、血小板減少、糖尿病、発育遅滞、精神発達遅滞、小眼球など多岐にわたります。


参考資料として
・国立感染症研究所ホームページ
監修:大阪府済生会中津病院感染管理室室長 国立感染症研究所感染症疫学センター客員研究員 安井良則氏
更新:2014/10