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 デルタ株の流行により、様々な人の感染例が報告されています。

 その中でも特に注意してほしいのは、やはり「妊婦」さんです。妊婦は、新型コロナウイルスに感染した場合、重症化しやすいとされています。

 労働基準法では、6週間(多胎妊娠の場合は、14週間)以内に出産する予定の女性は、産前休業することができると定められています。そのため産前休業の取得可能日まで、働く女性も多いのではないでしょうか。

 しかし、職場での感染対策が不十分なまま、働き続けた場合には、感染リスクも高くなるため注意が必要です。

 新たな命の誕生を待ちわびる妊婦さんの中には、不安が募っている方も多いかと思います。

 妊婦さんが感染した場合、出産にどのような影響があるのでしょうか。

 新型コロナウイルス感染症患者の診察にあたる大阪府済生会中津病院の安井良則医師に、「コロナ出産」について伺いました。

安井医師

 私の勤務するコロナ病棟には、年齢・性別を問わず、様々な方が搬送されて来ます。

 中でも、妊婦さんが搬送される場合には、緊張が走ります。妊婦さんが感染した場合は、重症化リスクが高く、母体のみならず、胎児の命についても考えなければならないからです。

 感染が判明した場合、「自然分娩」は難しいと思ってください。分娩の場で、「ラマーズ法」で呼吸をすると、大量の飛沫が飛散し、新生児が感染する恐れも出ます。新生児が感染した場合も、重症化しやすいので、注意を払わなければなりません。

 先日、当院に産科通院中の妊婦さんが搬送されてきて、その方は職場感染とみられ、肺炎を起こしていました。

 ワクチンは、モデルナ製ワクチンを1回接種済みとのことでした。その時は、母体と胎児の命を守るために、「帝王切開」を短時間のうちに決断してもらうこととなりました。

 幸い、新生児の集中治療ができるNICUを要する転院先へ搬送できたので、そこで無事「帝王切開」も成功し、母子ともに事なきを得ました。

 一方で、母体は回復したものの、胎児の命を救えなかったケースもありました。我々も悲しかったですが、お母さんは、それ以上の悲しみがあると思います。

 二度とあのような思いはしたくありませんし、して欲しくないです。

 妊婦さんも、ワクチン接種は可能です。ワクチン接種を終えた妊婦さんが入院されたケースもありましたが、重症化せず退院することができました。妊婦さんは、ワクチン接種をぜひ、検討してみてください。

 新型コロナウイルス感染症については、様々な治療法が出てきていますが、2021年7月に特例承認された「抗体カクテル療法」については、妊婦さんへの使用は推奨されておらず、現時点では、使用はできないと思ってください。

社会や周囲も理解を

 新型コロナウイルスに、妊婦さんが感染した場合、重症化しやすいことへの社会的な認知は、じゅうぶんとは言えません。

 妊婦さんへの感染経路としては、職場だけでなく、パートナーが家庭にウイルスを持ち込んでしまうケースもあります。大切なパートナーを重症化させないよう、また新しい命に影響が無いよう、周囲の方も、ワクチン接種を検討してみてはいかがでしょうか。

取材:大阪府済生会中津病院感染管理室室長 国立感染症研究所感染症疫学センター客員研究員 安井良則氏